人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「俺は予定通り狩りに出るが、姫はまぁ貴婦人たちとゆっくりお茶でもするといい。皇太子妃として」

 お茶会、という言葉にアリアは1回目の人生での出来事を思い出し、舌打ちしたい気持ちになる。
 姉のフレデリカなら上手く場を回すのだろうが、あの時は初めてだったこともあり随分と身勝手なご婦人達に振り回された。できれば今回の出席はお断りしたい。そこでアリアの中ではたと名案が浮かぶ。

「殿下、提案があります。私と賭けをしませんか?」

「賭け、とは?」

 聞き返したロイに頷くアリアは続ける。

「私、別に悪役になりたいわけではないんです」

 むしろ回避したいから、物語からの退場を画策しているのだ。

「私も狩猟大会に参加します。そこであなたに勝てたら、私と離縁してください」

 別にロイと離縁しキルリアに帰れるならば、悪役姫を演じる必要もない。

「それで、俺に一体何のメリットが?」

「私、昨日は殿下のお役に立ちましたでしょう? 私が負けたら私が持っているコネクション、殿下に全てお譲りします。外交上の繋がりが欲しくて私と結婚したのでしょう?」

 どうです? と問いかけるアリアにロイは一考の余地があるのかふむと考える素振りを見せる。そこでアリアは畳み掛けるように力説を開始する。

「殿下の目的さえ達成してしまえば、愛してもいない妃のご機嫌伺いをする手間も省けますし、そもそも私との離縁は殿下にもメリットいっぱいだと思うんですよね。離縁していれば、愛する人とすぐ結婚できますし」

 アリアとしては元々ロイが外交で上手く立ち回れるように支援してからヒナのために皇太子妃の座を明け渡すつもりだったのだ。
 ロイにいい感じに嫌われてフェードアウトが叶わなくても、離縁さえできればこの際問題はない。

「姫はよほど俺と誰かの縁を組みたいようだ」

「言ったでしょ? 未来が分かるって。殿下にはすぐ、運命が落ちてきますよ。だから、私とは離縁した方がいいんです。お互いのためにも」

 だから早く悪役姫と別れて幸せに向かって歩き出して欲しいとアリアは願う。

「じゃあ、賭けを受ける代わりに条件の変更を。姫のコネクション譲渡ではなく、姫に俺のお願いを1つ聞いていただきたい」

「殿下の願い事? それはなんです?」

「それは今から考える」

「……できない事を言われても困ります。離縁を望むな、とか」

 願い事の内容を賭けを実行する前に開示しないのはフェアじゃないとアリアは難色を示す。

「まぁ、賭け事自体受けなくても俺は一向に構わないが、姫の頑張りに免じて今回は受けてやる。だが、せっかく姫に願い事をきいてもらうんだ。内容はじっくり考えたい。その代わり無茶で姫自身に叶えられない願いを強要しないと約束しよう」

 上から目線な物言いと言い回しが非常に気になるところだが、これ以上の譲歩は望めそうにない。
 離縁のチャンスが得られるなら良しとしようとアリアは自分を納得させ頷いた。
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