人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

17.悪役姫は、狩りを始める。

 狩猟大会は捕獲対象にあらかじめ振り分けられているポイントの合計点で競われる。
 獲物を狩ったらエントリーしてある印をつけて転移魔法の施してある札をつければ、自動的に会場まで獲物が運ばれ、ポイント集計される便利仕様だ。
 なので腕に自信があれば大人数引き連れて狩猟エリアをまわる必要はなく、荷物が増える事もない。
 そんなわけでアリアは今回単身で狩りに挑んでいるのだが、

「やーっと5匹目! あーブランク辛〜。もうちょっとガツガツ鍛えとくべきだったわね」

 木の上から飛び降りたアリアは荊姫現役時代の頃との身体の動きの違いに嘆いていた。
 現在アリアの成果は、鹿2頭、白狼1頭、キツネ2匹だ。白狼はレアなためポイントが高い。
 狩猟が始まって半日が過ぎた。時間的余裕はまだあるが、ロイとの賭けがあるのでアリアとしては少しでも多くポイントが欲しいところだ。

「小物をちまちま狩っても埒があかないし、いっそ最高得点のクマでも狩りたいわね」

 本当にクマを仕留めたらキルリアで一部呼ばれていたような"熊殺姫"とか"鮮血姫"とか妙な異名がつきそうな気がするが、どうせ帝国を去る予定なのでこの際気にしないことにする。
 高得点を狙うならばもっと奥地にいかないとなと新たな獲物を求めてアリアは静かに移動を開始した。
 歩きながらアリアは過去の出来事に思いを馳せる。
 1回目の人生ではこの時の大会ではハデスが優勝し、フレデリカに受賞の盾と宝石の散りばめられた王冠を捧げていた。その時は遠巻きに姉とハデスを見ながらいつかロイが優勝したら、こんな風に王冠を頭に載せてくれるかしらなんて密かに期待したのだった。
 実際は今から2年後の狩猟大会で優勝したロイが王冠を捧げた相手はヒナだった。
 ロイから名前を呼ばれ、彼の色のカラードレスを可愛く着こなしたヒナが満面の笑みで王冠を頭に戴くのを眺め、唇を噛み締めて会場から走り去った時の苦い気持ちが蘇る。私が妻なのに、とその時は嫉妬でどうにかなりそうだったし、その後はひどく冷たくヒナに当たった。
 バカだった。本当に、どうしようもなく、あの時の自分はバカだったのだとアリアは思う。
 あの頃には誰がどう見ても名実共にロイのパートナーはヒナだった。愛していれば何をしても許されると思っていた傲慢さや妻という書類上の肩書きに固執していた自分の醜さに吐き気がする。
 今そう思えるのは2回目の人生でその時の様子を小説やコミックスで第三者として見たからだろう。
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