人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「偽装の……手伝い?」

 意味が分からず首を傾げたアリアに、ロイは自分の首を指さして、

「痕つけてもいいか? 目立つとこに」

 とアリアに尋ねる。

「……痕?」

「一番手っ取り早くてわかりやすい。見た人間が勝手に夫婦仲は良好だと思ってくれるさ」

「…………あー、そういう」

 アリアは1回目の人生の記憶を思い出し、口元を覆う。
 夜伽に呼ばれた時、必ず目立つところに痕をいくつもつけられた。あの時は気づかなかったが、それにはそういう意図があったらしいと今知った。
 そんな時まで計算しながら生きていかなくてはいけないなんて、なんて難儀な人なのだろうとアリアは呆れてしまう。
 だけど、それには確かに効果があった。それは1回目の人生の時に実証済みだ。

「いいですよ、つけても」

 ヒナの事を思えば、本当は不仲説が流れたままの方がいいのかもしれない。だけど、このままロイだけに負担を強いて、彼の立場を悪くするのは嫌だった。
 それにロイと関係を持つ事に比べれば、アリア的には格段にハードルも低い。

「それで殿下の周りが少しでも静かになるなら」

 アリアはゆっくり頷くとロイにどうぞと微笑んで了承を告げた。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 そう言ったロイはアリアに腕を伸ばすと膝の上に乗せ抱き抱える。

「あの、えっ!?」

 驚くアリアに、ロイはクスッと笑って、

「近づかないと痕つけられないだろ」

 当たり前のようにそういう。

「そう、ですけど……」

 だからといって、ロイの膝に乗せられ腕の中におさまる必要はあるのかと思わなくはないが、了承した以上異議は唱えられない。
 今まで触れないようにしていた分、ここまでの近さに心音が否が応でも早くなる。

「嫌ならやめようか?」

 コツンと額同士を引っ付けてロイがそう尋ねる。

「大丈夫……です」

 その近さにも、ロイが触れる指先にも嫌悪感はなくて、アリアは小さくそう答えた。
 ロイは少し顔を離してアリアの髪をそっと撫でる。
 そのまま指をアリアの首筋まで流し、ゆっくりと優しくアリアの形をなぞるように触れる。

「アリア」

 耳元でロイに囁かれ、胸の奥がきゅっと甘い痛みを伴っていっぱいになる。
 アリアの首筋に唇が寄せられ、チュッと音を立てて何度もキスを落とされる。

「……ん……あっ……」

 舌で首筋を舐められたりキスされたり、指で梳かすように優しく撫でられ、それに反応するように声が漏れ恥ずかしさでアリアは顔を赤くしながら唇を押さえる。

「やぁ……ん」

 甘く小さく鳴くアリアのその反応を楽しむようにゆっくり首筋に吸い付いたロイは、唇を離しそっとアリアの髪を上げる。

「ん、綺麗についた」

 満足そうにその箇所をなぞったロイは、そのままアリアを引き寄せて優しく抱きしめた。
 たったこれだけの事にいっぱいいっぱいになって大人しく身を寄せるアリアの髪をロイは梳くように撫でてそこに口付けて、

「アリア、可愛い」

 と囁いた。
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