人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

35.悪役姫は、無理難題を課す。

 結論から言えば、効果は絶大だった。
 普段は髪で見えそうで見えない位置につけられた痕は、騎士団での仕事中髪を束ねればどうしても人目に晒されてる。
 それに加えて、人前でのロイからのスキンシップがあからさまに増えた。
 とは言え、甘い言葉を囁かれるわけでも抱きしめられるわけでもなく、手を繋いで歩いたり頭を撫でられたり程度なのだが。
 それだけの変化に敏感に反応する人たちを見て、普段自分がいかに見られているのかをアリアは自覚せざるを得なかった。

(これは偽装、これは偽装っ)

 アリアは呪文のように自分に一生懸命言い聞かせる。そうでなければ痕をつけられた時の事を思い出し、恥ずかしさで叫び出しそうだった。

「んー、ちょっと薄くなってきたな。追加でつけていい?」

「いや、いいんですけど、でもっ、殿下っ!! その、偽装にこの体勢とか他にも諸々必要ですか?」

「当然.、必要だよ。アリアはそれっぽく見せるために嘘ついたり演技なんてできないだろ」

 そして現在、アリアは再びロイの膝に乗せられて首筋をマジマジと見られていた。
 ロイは指でアリアの耳や頬、首から肩にかけてそっとなぞっていく。触れるか触れないかのギリギリの触り方に敏感に肌が反応し、抑えていても声が漏れそうになる。
 今世の身体は確かにこういったことに未経験ではあるけれど、1回目の人生から振り返れば少ないとはいえ男性経験がないわけではないし、閨事に比べればこれくらい大した事ではないはず……なのだが。

(今すぐ逃走したいくらい恥ずかしい)

 そんなアリアの心情を察したかのようにクスっと笑ったロイはアリアの耳を甘噛みし、わざと音を立てながら首にキスを落としていく。

「……ひゃぁ……ん……はぁ、すみ……ません。変な声……ん、出て、しまっ」

「気持ちいい? アリア」

 耳元で囁かれたアリアは、耳まで紅く染めながら抗うように首を横に振る。

「その割に涙目だけど」

「……偽装のため、ですよね?」

 肩で息をして力が抜けてしまったアリアを抱き止めて、ロイはシャンパンゴールドの髪に指を通す。

「もちろん、そうだけど。アリアが痕みる度に、人から見られる度にこういうことされたんだって思い出してくれた方が効果的だろ?」

 アリアの指に1本1本指を絡めて、アリアの手の甲にキスをしたロイは、そう言って笑った。

「偽装にはある程度のリアリティの演出が必要、なんだけど。まあ、そんな可愛く鳴かれるといじめたくなるな」

 ロイはそう言いながら、アリアに触れたり、アリアに聞かせるように音を立てて何度もキスをして、舌を這わせ痕をつけていった。
< 81 / 183 >

この作品をシェア

pagetop