君を忘れてしまう前に
大学を出ると、ビルの屋上から伸びるインディゴブルーの空に、星がちらちらと輝く都会の風景が広がっていた。
冷たい夜風が頬に当たり、練習で火照った身体がすっきりと冷めていく。
その感覚があまりにも気持ちよくて背伸びをした途端、怠さと眠気が一気に増した。
隣を歩くサラは、いつものサラに戻っている。
とりあえずはよかったけど、サラが誰かに対してケンカを吹っかけるような態度をとるところを初めて見た。
香音さんを誰にも取られたくないという、サラの隠れた独占欲を垣間見た気がする。
香音さんが羨ましい。
わたしもサラに独占されてみたかった――なんて。
「和馬とどんな話した?」
耳によく馴染む、穏やかな口調が心地いい。
夜の溶け込んだ優しい風が、サラの黒髪と鼻筋の通った綺麗な横顔をふわりと撫でていく。
思わず「かっこいいなぁ」と口にしそうになったところで、ハッと我に返った。
「大した話はしてないよ。わたしのことを知っててくれてたって話と……あ、サラってわたしの変な話ばっかりしてるの? やめてよね、後輩にいらないこと吹き込むの」
「だって、仁花って面白いことばっかやってるし」
「どうせなら後輩にはいいこと言ってよ。なんかあるじゃん」
自分の顔に指をさしてアピールしたものの、サラはこちらも見ずに鼻で軽く笑っただけだった。
「なんかってなに?」
「褒めるとこだよ。例えばほら、明るい性格とか?」
「明るいのは確かにそうかも。単純てか、ちょっとば……」
「ほら! だからそれをやめてって言ってんの」
冗談を交わしながら2人だけで笑い合うのは久しぶりな気がする。
そんな気がするだけで、実際は久しぶりでもなんでもないけど、アレ以来、わたしが勝手にぎくしゃくしてしまって、こんなふうに話す機会がなかった。