君を忘れてしまう前に
 

 学内コンサートの中間発表が終わり、お昼休みのベルが鳴る。
 わたしは誰よりも早くコンサートホールを出て中庭へ向かった。
 このままJ−POPの校舎に戻れば、みつき達に「中間発表はどうだった?」と聞かれるに違いない。
 皆には悪いけど、今はいっさい中間発表のことを口にしたくなかった。

 わたしの中間発表の評価は最低だった。
 あまりにも酷いから、先生達に「なんで選抜試験に受かったの?」とまで聞かれる始末だった。

 演奏に集中が出来なかったのと、最近はサラのことばかり考えていて練習に身が入っていなかったのが原因だ。
 曇り空の下、ひんやりとした風に煽られてよみがえる客席からの冷たい空気。
 ぼぅっとしながらステージに上がった自分が恥ずかしくてたまらない。
 あの中にサラも香音さんもいたなんて。
 穴があったら今すぐにでも入りたい気分だ。

 中庭に着くなり芝生に腰を下ろし、バッグの中からおにぎりの入ったケースを取り出した。
 集中するとお腹が空かないだろうからと、お母さんが朝から用意してくれたものだ。
 普段はどうってことのないお母さんの優しさが、こんな時に身に沁みる。
 応援してくれる人がいるのに、大事な中間発表の場でなにをしているんだろう。
 おにぎりをひとくち頬張ると、目頭が熱くなって鼻がツンと痛んだ。

「あれ、仁花さん。今日はこっちで食べてるんですか」

 芝生を踏むお洒落なスニーカーが、わたしの前でピタリと止まる。
 顔を上げると、紙パックのオレンジジュースを片手に、和馬くんはきょとんとした顔でわたしを見下ろしていた。

「か、和馬くん……なんでいるの!?」
「中庭ですよ、ここ。人が通るとこですけど」

 今日は風が冷たいから外でお昼を食べる人なんかいないと思って中庭まで来たのに、まさか和馬くんと会うなんて。
 下を向いて、サッと涙を拭く。
 泣いているところを見られなかっただろうかとドギマギしながら、わたしは口いっぱいにおにぎりを頬張った。

「知り合い?」

 和馬くんの肩の向こうから顔を出した女の子が、あからさまにこちらを睨みつけている。
 堂々と敵意を向けられて少し気まずい。
 刺さりそうな視線を遮るように、和馬くんはわたしに背を向けた。

「ちょっと先に行ってて」
「やだ、和馬と一緒がいい」
「後で行くから」
「一緒に行こ」
「後で行くって」
「やだ!」
「めんど。おれ、こういうのまじで無理」
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