君を忘れてしまう前に
「……え?」
「今から用事ないなら入る?」
表情をなくしたサラが、練習室のドアを大きく開く。
なにを言われるんだろう。
中間発表で、あんな演奏をした後だ。
サラにぼろくそにこき下ろされるかもしれない。
でも、それでもまだわたしになにかを伝えようとしてくれている。
そう考えると居心地の悪さが少しだけ消え、胸が軽くなった。
――わたしはまだ、サラに嫌われていないのかもしれない。もしかしたらまた友達に戻れるかもしれない。
小さな期待を胸に隠し、わたしはサラの練習室に足を向けた。