君を忘れてしまう前に


「もちろん、いくらでも!」
「それ、どういうつもりで言ってる?」
「どういうつもりって。だってわたし達……友達……だよ、ね?」

 以前ならわざわざ口にはしなかったことを、サラの態度を見ながら恐る恐る確認する。
 その変化が悲しいけど、現状を考えれば受け入れるしかない。 
 サラは迷惑そうに顔をしかめた。

「友達?」
「そうだよ。わたしはそう思ってる……よ」

「サラは違うの?」とは聞けなかった。
 嫌悪感をむき出しにしたサラを前に、核心を突くことを言えば、わたし達の仲は終わってしまうような気がしたからだ。
 向き合いたくなかった現実に、視界がぐにゃりと歪む。
 それでも、サラの口から〈その言葉〉を直接聞きたくなかった。

 もしも〈その言葉〉を耳にしたら、わたしは明日からどうなるんだろう。
 大学に来てもサラとはもう会えない。
 会っても喋られない。
 目を合わすことだって。
 隣で歩くなんてもってのほかだ。
 あの幸せな時間をもう二度と手にすることが出来なくなる。
 そんなの――そんなの嫌だ。

「わたしね、サラと一緒にいたら凄く落ち着くんだよ。自分でも情けなくなるような話も、サラがちゃんと聞いてくれてるから」
「おれは仁花といて、心が落ち着いたことなんかないよ。ずっと前から」
「え……」
「おれは仁花と同じ気持ちじゃない。それに、これからも仁花と同じ気持ちにはなれない」
「……サラは違うの?」
「違う。ごめん」

 サッと血の気が引いていく。
 わたし達は違うかった――らしい。

「友達じゃないの?」

 言いたくなかった言葉がつるりと飛び出る。
 サラは無言のまま、視線を落とした。
 瞬く間に暗い顔をしたサラが霞んで見えなくなる。
 目頭がたまらなく熱い。ここで泣いたらだめなのに、勝手に涙が溢れ出した。

「違うかったの……?」
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