君を忘れてしまう前に
眩しい風が頬や額をふわりと通りすぎていく。
ドアの向こうに広がるこじんまりとした裏庭で、芽吹いたばかりの生命力溢れる緑がキラキラと光を放っていた。
「わあ、気持ちいいな」
「気分が変わりますよね。ここから外に出るの、好きなんですよ」
「ほんとだね。誰もいないのもいいな。秘密の場所って感じで」
「秘密か。いいですね」
春風がそよぐ校舎の裏庭を2人で並んで歩く。
辺り一面に咲く草花を照らす暖かな陽射しが、わたしの心の隅々まで燦々と降り注いだ。
「こんなにのんびりしたの、久しぶりだな」
「たまにはよくないですか。こういうの」
「凄く気持ちいいよ。ありがとう」
「ところで仁花さん、昨日のラインなんですけど」
「あ、ごめん」
わたしはピタリと足を止め、隣を見上げた。
昨日はサラと色々あってからそれに気を取られて、和馬くんが送ってくれたラインのことはすっかり頭から抜け落ちていた。
「ラインでも話しましたけど。コンサートが終わったら、一緒にどこかに遊びに行きませんか?」
そういえばそんな内容だったと思い出したと同時に、返事を返さずにいて申し訳ないという気持ちになる。
なにかと追われる毎日だけど、コンサートが終わった後、わたしはどんな状況に置かれているんだろう。
上手くいってもいかなくても、きっと今よりは自由になっている――かもしれない。
少し考えてから、わたしは首を縦に振った。
「いいよ」
「ほんとですか?」
和馬くんの落ち着いた表情が、一瞬でパッと明るくなる。
「どこか行きたいところはありますか? ないなら、ぼく探しますけど」
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「やった! 楽しみにしててくだいね」
和馬くんが無邪気に喜ぶから、わたしもつられて笑みがこぼれる。
太陽のように笑う子だ。
裏庭をくまなく照らす陽の光がとても似合う。
どこか冷たい雰囲気を持つサラとは正反対だ。
ひんやりとした夜の月と暖かい昼中の太陽みたいに2人はまったく違う性質を持っている。
だめだ。やっぱりなにをしていても、わたしの頭には常にサラの存在があって離れない。
サラへの思いは早く忘れたほうがいいんだろうけど、まだどこかで諦めきれない自分がいる。
わたしは、どれだけしつこいんだろうか。
自分で自分が嫌になる。
「……サラさんとはどうですか」
和馬くんは一歩前へ足を踏み出しながら、言いづらそうにわたしに問いかけた。
わたしも和馬くんに続いて歩き出す。
「サラとは最近、あんまり喋ってないんだ」
「あぁ、サラさん大変そうですもんね。香音さんのほうが大変だろうけど」
「どういうこと?」