君を忘れてしまう前に
「ごめんね。変なこと言っちゃって」
和馬くんは、またわたしの頬を袖で力強く拭った。
「も、もう泣いてないよ。涙止まったから」
「好きです、仁花さん」
「え!?」
突然の告白に目を丸くさせると、和馬くんは満足そうに微笑んだ。
なにを喜んでいるんだろうか。
どういう気持ちなのかまったく分からない。
和馬くんは香音さんのことが好きははずなのに。
「どういうこと!?」
「はは。面白いなぁ。ぼくのことで慌ててる仁花さんが見れて嬉しいです」
「からかったの?」
和馬くんはミステリアスな目つきでわたしの両頬を掴むと、むにっと引っ張った。
「仁花さんのほっぺ、見る度にこうしてみたいと思ってたんだよな。痛いですか」
「ひ、ひあい、はなひへ!」
首を横に振ると、和馬くんは簡単に手を離してくれた。
開放されたばかりの頬が微妙に痛い。
「なんなの急に!」
「パブロフの犬的なやつですよ。次に頬が痛くなったらぼくのこと思い出してくれるでしょ」
わたしは慌てて両頬を隠した。
「まだ足りないですか?」
「そんなふうに見える!?」
「見えなくもないです」
「やめてよ! つねるのも、そうやってわたしのことをからかうのも。びっくりするし混乱するから」
「今のは冗談ですけど。仁花さん、勘違いしてるっぽいんで。ぼく、そんな優しい男じゃないですよ。知ってるでしょ」
以前、一緒に歩いていた女の子に和馬くんが冷たい言葉を言い放っていた時のことを思い出す。
確かにあの時は驚いたけど、今はどう返事をしたらいいんだろう。
「最初はサラさんから仁花さんの話を聞いて、どんな人なのか気になったのがきっかけです。入学してすぐの頃からずっと見てました。仁花さんのこと、可愛いなって。本気ですよ。ぼく、わりと」
「ほんとに……わたしのこと?」
「コンサートが終わったらぼくのことちゃんと考えてもらえますか?」
「待って。ちょっと急で頭が追いつかな、」
「あれ、サラさんだ」