君を忘れてしまう前に


 サラの後をすぐに追ったつもりだったけど、どこを探してもサラの姿が見えない。
 用があると言っていたから、もしかするとどこかの校舎に入ったんだろうか。
 もうすぐ学内コンサートのリハーサルが始まる。
 迷っている時間はない。
 時間を確認しようと上着のポケットからスマホを取り出すと、充電が切れていた。
 ズボラな自分に心の中で舌打ちをする。
 どうしようかと辺りを見回していると、近くで女の子達が数人集まって話をしている様子が目に入った。
 試しに、サラを見かけたか聞いてみてもいいかもしれない。
 サラは学内では有名人だ。
 あの子達もサラの顔くらいは知っているだろう。
 声をかけてもいい雰囲気なのか探りながら歩いていると、女の子達がこちらを振り向いた。

「あ、すみません……あれ」

 振り向いた女の子達の中に、1人だけ見覚えのある子がいるのに気がついた。
  サラのいる練習室を訪ねて、冷たくあしらわれていた子だ。
 ハッとするくらい、綺麗な顔立ちだったから印象に残っている。
 あんなことがあったのに、ここでサラのことを聞いてもいいだろうかと考えたけど、この状況で引き返せそうにもない。
 わたしは、思いきって女の子達に向かって声をかけた。

「北岡サラくんを見かけませんでしたか」

 例の女の子がわたしを見ると、こくこくと頷いた。
 目の前の校舎を指差す。

「この校舎に入って行きましたよ。2階のあの辺りの教室に入って行ったと思うんですけど。一緒に探しましょうか?」
「ほんとに……? ありがとう!」

 校舎の昇降口の前で、他の女の子達が手招きする。
 わたしは呼ばれるがまま、校舎の中に入った。
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