君を忘れてしまう前に
女の子達の足音が消えてどれくらい経っただろうか。
部屋には時計もなく、正確な時間が分からないけど、もうリハーサルは始まっているだろう。
スマホの充電が切れているから誰かにこの状況を伝えることもできない。
わたしは、押しても引いてもピクリとも動かないドアの前でしゃがみ込んだ。
遠くなったサラの背中をもっと必死で追いかければよかった。
すぐにでも追いかければ、こんなことにはならなかったのに。
どうして、もっとサラと向き合ってこなかったんだろう。
サラの心を探るばかりで、わたしが思っていることはなにも話さなかった。
本心を知られて拒否されて、傷つくのが怖かったからだ。
自分の心をごまかして、現実からいつまでも逃げているからこんなことになってしまった。
罰が当たった。
今頃、わたしがリハーサルにいなくて皆、困っているだろう。
もしかしたら、中間発表の結果がボロボロだったせいで、怖気づいて逃げ出したと思われているかもしれない。
みつき、リカコ先生、お母さん。皆の顔が次々に浮かぶ。
そしてサラも。
わたしが今日のコンサートに出られなかったら、応援してくれていた人達は皆ガッカリするだろう。
なんのために今日まで練習したんだろうか。
皆がいてくれたから頑張ってこれたのに。
今日まで、わたしはなんのために――。
わたしはその場で立ち上がり、室内を見渡した。
薄暗くホコリっぽい部屋だけど、壁には一面に連なった窓がある。
急いで窓へ駆け寄り、鍵に指を掛けた。
固くてギリギリと嫌な音がするけど、無理やり力を入れるとガチャリとゆっくり鍵が開いた。
滑りの悪い窓を開け、真下を覗き込む。
1階と2階の間にちょっとした足場があるから、ジャンプしたらなんとか脱出できそうだ。
けれど、少しでもバランスを崩したら確実にケガをする。
打ちどころが悪ければもしかしたら――と、脳裏を過ぎったけど、不安を振り切りたくて頭を振った。
ここで閉じ込められたまま、今日のコンサートに出られなれなくなったら一生後悔する。
なにも挑戦せずに、その後悔を背負ってこれから生きていくなんて絶対に嫌だ。
今日のステージには絶対に立ちたい。
こんなわたしを励まして応援してくれた人達に少しでも恩返しがしたい。
わたしが一生懸命になれるのは、やっぱり音楽だけだ。
人に誇れるような才能なんかこれっぽっちもないけど、わたしは音楽が好きだ。
ずっと出たかったコンサートで歌えるチャンスが巡ってきたんだから、今日は全力で心をぶつけたい。
そうしたら、今度こそサラにちゃんと伝えよう。
わたしの本当の気持ちを。