君を忘れてしまう前に
窓に足をかけると、思ったよりも足場まで距離があることに気づく。
凄く怖いけど、やるしかない。
足に力を入れて、思いきりジャンプする。
景色が縦に伸びて線を描き、独特の浮遊感が身体を襲った。
しっかりと瞼を閉じて、足に力を入れる。
次の瞬間、両足に衝撃が走ったけど痛く――はない。
瞼を開くと、足場に無事着地していた。
汗がぶわっと噴き出し心臓が暴れる。
落ち着け。
どうにか落ち着けわたし。
次はこの下にジャンプすればコンサート会場まで向かうことができる。
あと少しだから、もう一度だけ頑張らないと。
足場から下を覗くと、コンクリートの地面が見えた。
2階から見た時には分からなかったけど大分距離がある。
一気に不安が襲ってきた
怖い。痛いのは嫌だ。
でもここでなんとかしないと、コンサートに出られない。
気持ちを奮い立たせた時だった。
「仁花!?」
サラの声だ。
きょろきょろと頭を揺らすと、わたしがいる足場の真下でこちらを心配そうに見上げるサラの姿が目に入った。
「リハに来ないと思ってたらなにやってんだよ、そんなとこで!」
「あ、えっと……」
「まぁ後で聞くから今はいいわ。それよりもこっちに飛べる?」
「それ考えてたんだけどちょっと怖くて」
「大丈夫、受け止めるから。来いよ」
サラが両手を広げる。
「サラが!?」
「文句ある?」
「違うよ、大丈夫!? わたし重いから無理だよ。サラが怪我しちゃう」
「とにかく早くこいって。コンサートに出られなくなってもいいの? あれだけ練習してきたのに」
「サラ……」
「仁花はなにも心配しなくていいから。歌、皆に聴いて欲しいんだろ」
サラに真っ直ぐ見つめられ、胸が熱くなる。
いつだってわたしを分かってくれるのはサラだ。
受け止めてくれるのもサラだ。
サラの広げた両手を見やる。
この手を振り払ったのはわたしだ。
今度こそ間違えない。