君を忘れてしまう前に
「1人で帰すのは可哀相じゃん。それに香音さんを差し置いてこの場でサラと2人でいるのは気を遣うし……」
「は? 誰が誰に」
「わたしが香音さんに」
「なんで仁花が香音さんに気を遣うんだよ。ただの大学の先輩なのに」
「え、付き合ってないの!?」
「うん」
「これから付き合うの!?」
「付き合わねぇよ。てか、なんでそうなんの」
「だって、サラも香音さんも……だって……。なんで付き合ってないの……?」
混乱するわたしを後目に、サラは冷めた顔つきで小さな溜め息をついた。
「おれ、好きな子いるから。その子以外、誰とも付き合う気ないし」
「えぇ!? それ、誰!? 香音さんじゃないの?」
やたらと大きな声がステージ上に響き渡り、周りにいたスタッフや生徒達が一斉にわたし達に視線を向ける。
サラは少し慌てながらわたしのそばに寄ると腕を小突いた。
「ばか、声がでかい。とりあえず今からおれの家に来る? ゆっくり話たいことがあるから。仁花の話も聞きたいし」
サラがそばに来たことで、心臓が飛び跳ねる。
さっきは舞台で肩まで組んでいたのに、今は腕が触れ合いそうになるだけで緊張で胸が詰まりそうだ。
サラにとってはなんでもないことかもしれないけど、わたしは恥ずかしくてたまらなかった。
「あ、えっと、サラの家……?」
「そう。嫌だったら他のとこにしよ」
「ううん、嫌じゃないよ。分かった」
わたしが返事をすると、サラは心なしかホッとしたような表情を浮かべたように見えた。
いよいよ、サラにすべてを話す時がきた。
サラの家で、というのは想定外だけど……今のわたしなら素直に全部話せる。
そんな気がした。