君を忘れてしまう前に
だいすき
サラの車の助手席に座りながら、窓の向こうで徐々に暗くなっていく空を眺める。
こうして車に乗せてもらうのは久しぶりだ。
以前はみつき達と一緒にドライブに行ったり、家まで送り届けてもらうことが何度かあったけど、最近は色々なことが重なったせいでまったく機会がなかった。
ちらりと隣を覗き見る。
スーツのジャケットを脱ぎ、ベスト姿でハンドルを握るサラの横顔が普段よりぐっと大人に見えた。
まだまだ学生の身で高級車を乗りこなせるのは、サラが資産家の生まれで、ハイクラスなものに囲まれて育ったからなのかもしれない。
やっぱりわたしとはなにもかも違う。
わたしの家はお母さんがヒーヒー言いながら家計をやりくりして、なんとか高い学費を支払いながら大学に通っている一般家庭だ。
音楽大学に入学していなかったら、サラとは一生出会えなかっただろう。
だからこそ、この気持ちに正直でいたい。
サラがいなかったら、わたしは恋を知らなかった。
笑いかけてもらうだけでドキドキすることも。
ちょっとしたことで切なくなることも、幸せだと思えることも。
サラのことを思って何度も何度も泣いた。
その時は辛かったけど、今思い返せば凄く人間らしい感情だった。
わたしのそんな部分を引き出してくれたのがサラでよかったと思う。
対向車のライトがサラの横顔を照らす。
サラの耳のピアスがきらりと光った。
「ん? こっちになんかあんの」
「ううん。その軟骨のとこに開いてるピアス付けてるの久しぶりに見た。前から思ってたけど似合ってるよね」
「そう、じゃあこれからずっと付けようかな」
サラは軽く頬を緩ませ、ゆるやかにスピードを落としながらハンドルを切った。
なんだかずるい。
その言い方だとわたしが褒めたから付けるという意味に聞こえる。
「今よりもっとモテるんじゃない」
「別にそんなのどうでもいいよ」
――じゃあ、なんで付けるって言ったの?
胸がキュッと締めつけられる。
サラが何気に口にした言葉をどうしても深読みしてしまう。
ただのちょっとした会話にいちいち反応していたら心が持たない。
今日はちゃんと話をするためにきたから、とりあえず話題を変えて気分を落ち着かせたほうがよさそうだ。