君を忘れてしまう前に
「待って、サラ……」
サラに腕を引っ張られながら、マンションの廊下を走る。
サラは部屋の前まで来ると、勢いよくドアを開け、わたしを玄関に押し込んだ。
流れのまま玄関に足を踏み入れた途端、壁に押しつけられ、強引に唇を食べられる。
時間の止まった玄関で、貪られるようなキスを何度も重ねた。
「ふ……」
息ができなくて苦しい。
サラのシャツの胸元をぎゅっと握ると、唇が離れていった。
鼻先同士が触れ合う。
サラは焦がれるような熱い瞳でわたしをじっと見つめた後、わたしの頬に鼻先を擦りつけた。
「もうちょっとしたい。だめ?」
唇の端に、サラの唇が触れる。
わたしは息が苦しいのも忘れてふるふると首を横に振った。
唇がじんじんする。
サラの唇が欲しい。
今すぐ、もっと欲しい。
でも欲求はどんどん高まっていくのに、サラはキスをくれなかった。
代わりにサラの唇がわたしの耳元に押し当てられる。
熱い吐息で身体の力が抜けそうになったけど、なんとか踏み止まった。
唇は耳を縁取るように這っていく。
「好きだよ」
ゾクゾクと背中が痺れた。
今度こそ体中の力が抜けていく。
支えきれなくなったわたしはサラの背中に腕を伸ばした。
助けを求めるようにぎゅっと抱きつくと、サラは再びわたしの唇を奪った。
「ん」
唇をこじ開けられ、サラの熱い舌が口内に入ってくる。
強引に舌を絡め取られ、わたしの唾液をサラがこくりと飲み込んだ。
恥ずかしくて死にそうだけど、まだやめたくない。
サラに好きだと言われても、深くキスを重ねても、なぜか満たされない。
それどころかもっとサラを求めている自分がいる。
どうしてだろう。
理由を探しているうちに、目尻から出た涙が頬を伝った。
「ごめん。嫌だった?」
サラが離れていく。
嫌だ、離れたくないのに。
わたしはもう一度、サラの胸元をぎゅっと掴んだ。
「違うの。わたし……サラのことが好きすぎるの。だから泣いてるんだと思う。もっとサラが欲しいの。近くに感じたいの。こんなにキスしてるのに、まだ足りないって思っちゃう」
サラはわたしの肩に顔を埋めた。