君を忘れてしまう前に

「無理しなくていいよ」
「違うの、サラを受け止めたくて。だからやめないで」
「……もう」
「え、わたし変なこと言った?」

 サラは首を振ると、わたしの耳に唇を寄せた。

「仁花が欲しい。欲しくてたまらない」

 サラの吐息混じりの声が鼓膜を刺激して、お腹の奥がキュンと切なくなった。
 わたしの乱れた髪を、サラが穏やかな手つきで整える。

「できるだけ優しくするから動いていい?」

 こくりと頷くとサラはゆるゆると腰を動かし始めた。
 奥がズキズキと痛む。
 でもこれはわたしがサラに愛されている証拠だ。
 それならいくらでも痛めばいい。
 サラに愛されていることを実感できるなら、ずっと記憶に残るくらいの痛みが残ればいい。
 そうすれば、少しはこの渇きにも似た気持ちが満たされるかもしれない。
 サラにもっと愛されたいという心の渇きが。

 濡れた音が室内に響く。
 2人とももう言葉は交わさなかった。
 お互いの吐息が混じり、どちらからともなくキスをする。
 お腹の違和感にも慣れてきた頃、唇の隙間から自然と声が漏れた。
 まるで他人のような艶っぽい声だ。
 その声を聞いた途端、サラの動きが激しくなった。

 ベッドの上で、身体を揺さぶられる。
 腰を強く打ちつけられ、はくはくと唇が震えた。
 その唇をむさぼるようにサラに塞がれる。
 熱い。
 苦しい。
 でも、もっと欲しい。
 汗ばんだ身体を擦りつけ合う。
 初めて知った恋の先に、こんなに荒々しい感情があったなんて思いもしなかった。
 サラのことが好きだ。
 心が燃えてなくなってしまいそうなほど好きだ。
 いっそ、このまま燃えてすべてなくなればいい。
 2人で一緒になくなってしまえば。

「仁花……好きだよ」

 サラの動きが止まり、身体の重みが増す。
 お腹の奥が静かになってこれ以上にない満足感が心を満たした。

「わたしも好き」

 サラは大きく肩を揺らし、息を整えながら、わたしの唇に何度目か分からないキスを落とした。
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