君を忘れてしまう前に

　
　サラはごろんと隣に寝転がった。
　柔らかなつやつやの黒髪が、汗で頬や額にしっとりと張りついている。
　その頬は薄く染まり、瞳も潤んでいてひどく色っぽい。
　気だるい視線をこちらに向ける様子を眺めながら、わたしはこの人に抱かれていたんだと思うと、また欲しいという欲求に駆り立てられた。

　いやいや、わたしはなにを考えているんだろう。
　終わったばかりなのに、熱にやられて頭がおかしくなってしまったんだろうか。

「仁花、おいで」

　サラは寝転がったまま、わたしを引き寄せた。
　キスがしたくてサラに顔を近づけると、優しく頭を撫でられる。

「違うの。キスして」
「おねだり？　可愛い」

　唇が重なると、すぐに口内に舌が割入る。
　サラはわたしのお腹や腰をとろりと撫でた。

「２人で酔っ払った日の朝にさ。おれ、仁花に自分の気持ちを伝えようと思ってたんだよ」
「そうなの！？」
「でもあの日、タイミングが合わなくて言えなかった。仁花に触れてから、仁花がもっと欲しくなってたまらなくなった。ずっと我慢してたよ」

　サラが肘をついて身体を起こす。
　その瞳には、ほのかな熱が灯っていた。
　
「他の男に仁花のこんな姿を見られたら耐えられねぇってずっと思ってた。どうしたら仁花を独り占めできんの？」
「もう全部、サラのものだよ」
「おれは全然足りないよ。もっとぐずぐずに溶けた仁花が見たい。おれなしじゃ生きていけないくらい」

　サラはわたしの両足を割って入ると、また深く口付けた。
　足を大きく広げられ下着越しに腰をあてられる。

「サラ……、」

　小さく名前を呼ぶと唇を隙間なく塞がれ、声を閉じ込められる。
　お腹の奥が切ない。
　でも、それと同時にツキリと痛みが走った。

「痛い？　ごめん、さっきは抑えられなくて。今日はゆっくり休も。水飲む？」

　サラは性欲が消えた軽いキスを落とし、ベッドから出た。
　引き締まった身体が、薄暗い部屋の明かりに照らされる。
　どうして、サラは男の人なのにこんなに色っぽいんだろう。
　この姿は誰にも見られたくない。
　わたしだけのものだ。
　独り占めしたいのはわたしも同じだった。
　サラは水の入ったコップをベッドまで持ってくると、わたしには渡さず自分の口元に運んだ。
　濡れた唇が落ちてくる。