飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
「心!」

 そのとき、夏宮くんの名前が呼ばれて反射的に声の主へ目を向ける。

 さっき入江さんに連れられて行ったはずの八木澤さんだ。

 息を切らして一生懸命走って戻ってくる。

「お昼食べ行こ~!いつもの場所でみんな(しん)のこと待ってるよ!」

「あーはいはい」

 夏宮くんはぶっきらぼうに返事をすると、私に流し目をした。

 そしてフッと笑って小声で「一緒に行く?」と聞く。

「え⁉あっ、いや、大丈夫で、す」

 咄嗟に遠慮した私に、夏宮くんは「そっか」とだけ言ってなにか考えこむように視線を別のところへ泳がせた。
 
「心ーはやくー」

 八木澤さんに急かされた夏宮くんは、「んー」と適当な返事をして私に背中を向けた。

 八木澤さんの後を小走りで追う夏宮くんを見送りながら、私は熱くなった頬に手を当てる。


 え……?さっき夏宮くん、なんて言った?


 『かわいー』
 
 
「う……わぁ……っ」


 心拍数が一気に跳ね上がる。
 
 か、かわいーって、遠巻きに見た目が可愛いって意味で言われたことはあったけど、さっきのは、なんか違った。

 しかも面と向かって目を見て、それこそあんなかわいい笑顔で……っ

 キャーッ、キャーッ!

 
 そこで生徒がたくさんいる廊下にいることを思い出した私は、慌てて歩き出した。


 どうしよう、どうしよう!

 なんか私、始まっちゃうかも……⁉



 
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