飼い始めたイケメンがずっとくっついて離れてくれない。
第2章 飼う。

夏宮くんのトリセツ


「警察も協力始めたけど、全然見つかんねーって」


 夏宮くんが行方不明になって、数日。

 最後のホームルームが終わって帰り支度をしていると、耳に入るクラスメイトたちのひそひそ声。


「こないだの〝夏宮くんについて何か知ってますか〟ってアンケート、なんて答えた?」


 ……警察の方。すみません。

 何も知りませんって書いちゃいました。本当にすみません。


「今日この後どうするー?」

「暇だなー」


 ……太陽のいなくなった教室は案外普通に運行していたけど、やっぱりどこかジメジメとしていて。


 ひとり静かに席に座る中志津くんの思い詰めた顔や、友達の前で気丈に振る舞う八木澤さんの目の下のクマに、心が傷む。

 やっぱり中志津くんと八木澤さんくらいには言ったほうがいいんじゃないかな……。

 夏宮くん、頑なに言いたがらないけど……そんなに猫になること、恥ずかしいのかな。

 
「校外学習、楽しみだねー」

 下駄箱で靴に履き替えてるとき聞こえてきたのは、テニス部の女の子たちの声。

 必然的に今日のホームルームで先生が言っていたことを思い出す。


『明日校外学習の班決めするからなー』


 ……班、決め。


 一部の元気なクラスメイトたちの声で、抽選でなく生徒たちで自由に組むことになった、班決め。

 相変わらず高嶺の花という名のぼっちな私にとって、これほどまでに恐ろしい単語はそうそうない。

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