Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~
__トントントン

ノックすれば恭介さんの短い返事が聞こえた。部屋の雰囲気に合わせるようにクラシック音楽がレコードから流れている。ソファに腰掛ける彼は本を読んでいた。


「きょ〜すけっさん!」


後ろからそっと近寄り、残りの一歩は恭介さんの背中に覆い被さるように抱きついた。

少し遠くから近づいたから背中はいつもより小さく見えたが、こうして触れ合うと私との体格差を改めて思い知る。


ノックをしたのだから忍び足で私が近寄ろうと気づいているだろうに好きにさせてくれたことに頬が緩む。


何を読んでいるのか気になってソファを回り込んで隣に座る。洋書のようで英語が綴ってあった。


私だったらこんなの読むのに一年はかかっちゃうな、なんて思いながら目の前にある重厚感あるテーブルに置かれたケーキに手を伸ばす。


ペラ、ペラと捲られる本と私が奏るフォークと皿がぶつかる音。こんな穏やかな日がずっと続けばいい。会話がなくとも気まずいなんてすでに思わなかった。


「美味しいか?」


「ええ、とっても」


名前を呼ばれ、お皿を置いて恭介さんの方を向く。


「……ん」


いつの間にか厚い本をソファのサイドテーブルに置いていた彼は私の唇を奪いながら、肩をトンと弱く押した。
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