私を導く魔法薬
 驚く彼女の耳元に、魔王は口を寄せ囁く。

「…ダリア、我の魔力の片鱗を受け継ぐのだ。さすればその男の記憶などすぐに戻る…どうだ?受けるならば、我の口付けを受けよ…」

「…口付け…!?」

 魔王の口付けを受けて魔力を授けてもらい彼の記憶を戻す、
 魔王は今、確かに自分にそう提案した。

 しかし口付けは、混血魔族である自分にとっても人間と同じ。
 魔力のためとはいえ、先ほどの氷の魔人にしろ自分のいる国の王にしろ、そう簡単に口付けを奪われて良いはずはない。

 彼女は思わず振り返り、あの剣士姿の彼を見た。

「…ほう…?やはりか…」

 魔王の楽しげなその呟きとほぼ同時に、彼女は急いで一歩下がり身を正して頭を下げた。

「ま、魔王様っ!!…私…やってみせます!!魔力には頼りません!強い魔力は無くとも、私には彼の記憶を戻す義務があります!!彼が私のもとに来た…それはきっと、私の運命だったんです!」

 聞いた魔王は何も言わずに玉座に戻り、涼しい表情で、

「そうか。では頼んだぞ、ダリア」

 それだけを言い指一本を振る。

 気付けば兵士達とダリア、そして彼は、もとの森へ帰っていたのだった。


「魔女ダリア。魔王様より、その者の記憶が戻り次第、この国での処置と自国への帰還の意志確認をするとのこと。期待している」

 兵士達はそれだけ言うと霧のように去っていった。

「…魔王様、彼に害はないと最初から判断していたんだわ…。あれは私に発破をかけたのね。でなければ普通今ごろは確実に取り調べよ?本当にヒヤヒヤしたわ…!」

 彼女は、城でこの瞬間の様子を見ているかもしれない魔王にわざと聞こえるようにそう呟いた。
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