私を導く魔法薬
 ダリアは、自分が適温の湯をすぐに出さなかったことを男は言っているのだと分かった。
 気にしていることを口にされ、彼女は男に向かって怒鳴る。

「悪かったわね!!私はどうせ混血魔族よ、半魔族よ!!魔法だって純魔族より劣るわ!!」

 その言葉に男は穏やかに首を振った。

「いや、魔族は分からないが感心したんだ。だからお前は手際がいいのだな。面倒見はいいし、お前と添い遂げる相手がいるとすればさぞ幸せになれるだろう。それに、魔法に頼らないのは良いことなのだと俺は思う」

「…。」

 もちろん褒められたことなどない。自分はできる事をしてきただけ。

 それに『添い遂げる』など、自分の寿命は純魔族たちに比べれば短いうえ人族に比べれば長い。
 そんな半端な自分といてくれる者など希少なものに決まっている。

 彼女は何も言えなくなってしまった。

「この湯に手を浸けてみれば良いのだろう?」

 先ほどの言葉を何も気にしていないであろう彼はダリアにそう声を掛ける。

「…え?そう、そうよ!してみて!」

 彼女は急いで頭を切り替え、頷いて言った。

 男が湯に手を浸けたとたん吹雪が小さく巻き起こり、男は瞬時に手を引いた。
 するとみるみる湯が冷め氷に変わっていく。

 これは明らかに彼には強力な呪いが掛けられているのだと思った。
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