【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「ねぇ、エスター。一緒に共和国へ行きましょうよ!」

「ええっ!?」

「何よ、いやなの?」とアデルが頬を膨らませる。

 私は「嫌じゃないけど、急な話だから驚いたの」と苦笑して、ぷっくり膨らんだ頬をつついた。アデルは真顔で「私は真剣よ」と言う。
 
「実家に居てもエスターが傷つくだけじゃない。一緒に来てくれたら私も心強いわ」

「私は嬉しいけれど、アデルのご両親に迷惑をかけてしまうんじゃない?」

「うちの両親がエスターのこと大好きなの、知ってるでしょ? 我が家は大歓迎だから、前向きに検討してみて」

 一緒に共和国へ行く気満々のアデルに、私は「ありがとう、考えてみるね」と告げて頷いた。

 
 アデルと話したことで、私の心はずいぶん軽くなっていた。

 異能を失った現実は変わらない。悔しくて悲しい気持ちも、まだ当分、消えそうにない。

(それでも前を向いて強く生きなきゃ。実家に居場所がないのなら、別の場所で生きてみるのもいいかもしれない)

「アデル、ありがとう」

「いいのよ。エスターは幸せにならなきゃだめ。ワガママ妹だけが幸せになるなんて、私、許せないわ」

 だから一緒に幸せになろうね!と笑うアデルの笑顔がまぶしい。
 病を患ってもなお未来への希望を捨てない姿に、心から憧れた。

 
「私、いつかアデルみたいに強くて素敵な女の子になりたい」

 
 唐突にそう言うと、アデルはちょっと驚いたように目を見開いて「えへへっ」と照れくさそうにはにかんだ。
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