【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
(うちが入った代わりに、円卓から外されたウォルス卿には悪いが。運とコネも実力のうちなんでねぇ。真面目にお仕事するだけが出世の道じゃないのさ)

 生真面目なウォルス伯爵の落ち込んだ姿が目に浮かぶ。憐れだなと思うものの、特に罪悪感はなかった。

 鼻歌を歌いながら舞踏ホールに足を踏み入れた途端、競うように女が群がってくる。
 
「ダニエルさま、わたくしとダンスを踊ってくださらない?」

「ちょっと! ダニエルさまは、私と踊るのよ!」
 
 円卓会議の一員となってから、俺のもとには日夜大量の縁談が舞い込んでいた。どの家もコネと人脈づくりに必死なのだ。

「俺の前で醜い争いをするな。順に踊ってやる、来い」

 俺は目についた令嬢の手を適当に取り、ホールへ踊り出た。
 
 
 金、地位、名声、権力、女――望んだものは、すべてこの手中にある。

(なのに……どうして、俺はこんなにも満たされないのか)

 ダニエルさま、と媚びるように女が囁く。くるりとターンした時、きつい香水のにおいがツンと香った。頭の芯が鈍く痛む。

 俺は女の手を勢いよく払いのけた。「きゃっ」と令嬢が尻餅をつく。

「ダニエル様……?」

「お前の香水の匂いで、酷い頭痛がする。品のない女だ。俺にふさわしくない」

「申し訳ございません! あのっ、ダニエルさま!」

 引き留める女の声を無視して、俺は急いでバルコニーへ向かった。
< 65 / 226 >

この作品をシェア

pagetop