彼は溺愛モンスター

恋愛と友情

「サチカーっ!!!」

休日。私はサチカをカフェに呼び出した。

「ちょ、どうしたの……。落ち着けば?」

サチカは呆れ顔。

いや、私だって落ち着きたいんだけどね!? 落ち着けないんだよおっっっ。

私は深呼吸する。
スゥー、ハーッ。落ち着け、私。

「……恋の定義って、なんだと思う?」

「は?」

サチカは面を食らう。
そりゃそうだよね……!

なんで私がこんなことを聞いているのかというと。
発端は、『ヤンキー事件』だったんだよね。

事件からというもの、楓くんを見れないんだ。
楓くんを見ると、心臓がバクバクして痛くなっちゃうの……っ!
それなのに、楓くんから目を逸らさない。
なんでっ!?

「うーん、難しいなぁ……。でもさ、恋してるときって、無意識にその人を追っちゃわない? 目で追うっていうか、目が離せないっていうか……。あとは、キラキラしてみえるとか、自分の情緒が不安定になるとか? そんな感じだと思う」

無意識に目で追っちゃう……!
キラキラして見える……!
情緒は、わかんないけど。

でも、それって私、楓くんのことが「好き」ってことだ……!!

私は無意識に口を抑える。
気持ちを自覚したら、好きがあふれちゃいそうで。

慌てて違う話題を考える。

「サ、サチカ、すごいねー! 恋の定義が明確なところ、本当すごいっ」

私なんて、初恋もまだ––––……いや、今経験したばっかなのに。

「まあねー。ずっと彼氏いるし。今はフリーなんだけど……」

サチカは急に声のトーンを落とす。

? どうしたんだろ。

「あ、あのさ……もし、よかったらなんだけどねっ」

「うん(?)」

「さっ、佐藤くんの好み、教えてくれないかな〜……なんて……」

途切れ途切れに話すサチカ。

佐藤くん––––。それって……楓のこと?

「な、なんで好み知りたいの……?」

一瞬、聞くのをためらった。聞いてしまったら、ダメな気がしたんだ。

でも、好奇心の方が勝ってしまって。

「……の」

「え?」

「だから〜っ、好きって言ってんの!」

大声で言わせないでよ、ばかっ!

サチカはそう言った。

私は息をするのを忘れる。

え、好き? それってlove? likeじゃなくて?
瞬間、私が埋め尽くされる。

「聞かなきゃよかった」という感情で。

どうするのが正解かわからなくて、私は笑った。

「そっ、そうだったんだ〜! わ〜、気づかなかったぁ〜!」

きっと、今、私、変だ。

声がかんだかかって、笑顔がぎこちなくって。口元がひきつっていて、冷や汗をかいている。

「お、応援してくれるの……?」

サチカが私に問う。

「うん、もちろん!」

応援できないとは言えなかった。

……それに。
楓くんだって、かわいいサチカに好かれたほうがいいよね……。

––––私は、邪魔だ。

その夜。私は全然眠れなかったんだ。

*side・サチカ
私はひどい。そしてずるい。可愛くない人だ。

それに対して……イヨちんはかわいい。
素直で顔に出やすい、女の子らしい純粋な子だ。
健気で、私と違って優しい人だ。

きっと––––、佐藤くんだってイヨちんに好かれたほうが嬉しいよね。
そんなのわかってる。二人は幼なじみだし。

でも、それじゃ私のプライドが許さない。

想いを簡単に諦めることなんて、できない。

だから、イヨちんに言った。「佐藤くんのことが好き」って。

「恋の定義って何?」の質問で、確信した。
イヨちんは、佐藤くんのことが好きなんだ……。

だから親友の私が好きって言った。だって、イヨちんは“優しい”から。
優しいイヨちんは、親友の好きな人に告白なんてしないはず。

でも、佐藤くんはイヨちんのことが好き。
鈍感なイヨちんは気づかないけど、佐藤くん、結構わかりやすいアプローチしてると思うんだよね。

だから。最初から私は負けている。

––––つまり、“佐藤くんを好きになった私の負け”……って、ことなんだ––––。
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