オタクが転生した結果

狂ったヒロイン

王子の社交界デビューとあって、多くの貴族がテオドリックの元へ挨拶に訪れていた。

中には王子に自分の娘を売り込もうとしてくる貴族もいたが、テオドリックはこの時とばかりにクリスティーヌへの愛情を示す。クリスティーヌへのアピールも兼ねたその行動は、全くもって余念がない。

マルゲリット達は、そんな2人の様子を少し離れた場所から生暖かく見守っていた。

エ「ちょっと待って?クリスティーヌ様、尊みが過ぎない?マジしんどいんですけど?」

マ「本当、控えめに言って最高だわね、、」

どっぷりと沼に浸かっていた2人は、突然の出来事に反応する事ができなかった。

ドン!「「キャ!」」

鈍い衝突音と、2人分の小さな悲鳴が重なる。

シャルロワ卿に伴われてテオドリックの元に挨拶に訪れたミュリエルが、クリスティーヌに特攻したのだ。

だが、軽くよろけた程度のミュリエルに対し、か弱いクリスティーヌはバランスを崩して倒れそうになり、隣にいたテオドリックに抱き止められた。

本来抱き止められるのは自分だと思っていたミュリエルは、予想外の結果に憤慨する。

(悪役令嬢の癖に弱過ぎるこの子がいけないんでしょ!何で王子はこの子を庇うのよ!?あり得ないじゃない!)

「クリスティーヌ様酷過ぎます!いくら私が美しいからって、嫉妬して突き飛ばすなんて!」

『え?体当たりしたの、お前だろ?』

その場にいる全ての人が心の中で突っ込みを入れた。いくらガバガバ設定とは言え、目撃者が多過ぎる。

「クリスティーヌ、大丈夫かい?」

テオドリックがクリスティーヌに声をかける。彼の目にミュリエルは映らない。何故なら彼はクリスティーヌしか見ていないのだから。

(だから!その子は悪役令嬢なの!どうして私を見てくれないの!?)

「悪いのはクリスティーヌ様なのに!こんなのって酷過ぎますわ~およよよよ~」

妙な効果音と共に、ミュリエルが泣き真似をしながら、テオドリックにしなだれ掛かった。

これにはさすがのテオドリックも驚き、ミュリエルに顔を向ける。

(ああ!遂に王子が恋に落ちる瞬間が来たわ!)

「無礼者!許可なく殿下に触れるでない!」

テオドリックの護衛により、ミュリエルは呆気なく引き剥がされ、拘束されてしまう。

(あれ?どうなってるの?なんかヤバイ感じ?)

貴族令嬢ならこんな時どうするでしょーか?

(テンプレ奥義、失神!)

失神したミュリエルが速やかに控え室へと回収され、その場は一時収まった。

『あの女何なんだ?クリスティーヌ様は体当たりされただけだよな?一体何が悪いって言うんだ?意味不明過ぎるだろ?』

その場にいた誰もが困惑する中、出遅れて傍観していたマルゲリット達は、同じ事を思っていた。

((およよよよ~って泣く人、生で初めて見ちゃったわー))
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