天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

昨夜、手術した野間を想って涙したところを見せたせいで気を使わせてしまったが、その心遣いと、彗が隣にいなかったのは呼び出しがあったからなのだという事実に、つい先程冷えた胸の奥がじんわりと温かくなる。

安堵すると、今度は近くで鳴ったはずの電話の音に気付かないほど疲れ果てて眠っていた自分が恥ずかしくなり、ソファに移動して膝を立てて座ると、叫び出したい衝動をクッションに顔を埋めることでなんとか抑え込んだ。

(私、一体どうしちゃったんだろう……)

なぜ身体を重ねてしまったのか、自分らしくない行動に動揺が走る。

ただ彗が自分を求める熱に絆され、拒否できなかった。いや、正しくは拒否しようと思わなかった。

野間の手術が成功したと聞き、ホッとして溢れた涙は突然のキスによってぴたりと止まり、頭の中は彗一色に染め上げられた。

まっすぐに見つめて名前を呼ばれ、涙を拭う指先の優しさに胸が高まり、ぼうっとしてなにも考えられなくなったのだ。

(もしかして、先生を好きになってる……?)

自覚するまいとしていた感情に目を向けるが、そんなはずはないと首を振る。

最近は居候生活にも慣れ、他愛ない言い合いをしながら楽しく暮らしていたとはいえ、結婚を提案された時の条件は忘れようがない。

彗に恋心を抱いてしまえば、よくない結末へ向かうのが目に見えている。

< 100 / 227 >

この作品をシェア

pagetop