私のボディーガード君
エレベーターホールまで綾子さんが見送りに出て来た。私を見る表情は反省しているというよりはどこか悔しそう。

「佐伯先生、汚いですよ」

ボソッと綾子さんが言った。
秋山さんはまだ社長と話があったので、この場にいなかった。

「汚い? 何が」
「三田村家を盾にするなんて」
「盾?」

一体何の事を言っているのか、全くわからない。

「とぼける気ですか? うちに圧力がかかるように三田村家に告げ口をしたんでしょ?」

告げ口だなんて、酷い言われよう。

「子どもじゃないんだから、告げ口なんかしないわよ。綾子さんこそ、私との事を親に言うのはどうかと思うけど? それこそ告げ口なんじゃないかしら」

うっ、と綾子さんが唇を噛む。
打たれ弱いお嬢様は今にも泣き出しそう。

今日はこの辺で勘弁してやるか。

「ところで社長が言っていた脅迫状の事って何?」
「知りません」
「本当に知らないの? あなた、社長秘書なんでしょ?」
「私は秘書課に異動になったばかりなので、詳しい事は知りません」
「なんだ。ずっと秘書課にいたんじゃないんだ」
「研究所で薬の開発をする仕事をしていたんです」
意外。このお嬢様が薬の開発をしていたなんて。
もしかして知っているかな?

「ねえ、倉田浩介という研究員の事は知っている? 抗がん剤のチャイルドを開発していたようなんだけど」

綾子さんがハッとするように眉を上げた。
この反応は何か知っていそう。

「綾子さん、せっかくだからお茶しましょう!」
「はあ?」

不機嫌そうに今度は綾子さんが眉を寄せた。

「あなたは私に貸しがあるでしょ?」
「そんな物ありません」
「社長室に戻って、綾子さんを許せないって社長に言おうかな」
「やめて下さい」
「だったら、お茶につきあって。私の質問に答えてくれたら、和解した事にしてあげるから」

綾子さんがぐっ、と小さく口にし、来たばかりのエレベーターに乗り込んだ。

「4階に社員専用のティーラウンジがあります。そちらにご案内します」
「綾子さん、ありがとう」
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