私のボディーガード君
窓の近くに立って、朝陽が昇るのを三田村君と一緒に見た。

「もう朝か。チェックインしたのは昨日の昼過ぎだったのに早いな」

寂しそうな声で口にすると、バスローブ姿の三田村君が後ろから私を抱きしめる。窓の外に視線を向けたまま、顔を私の右頬に寄せ、頬と頬をくっつけた。頬の熱と息遣いを感じるのが照れくさい。こんな事ができちゃうなんて、心と体の距離が一晩でぐっと縮んだと実感する。

「楽しい時間はあっという間ね」
「妃奈子さん、楽しかった?」
「うん」

バスローブの胸の前で組む腕をギュッと掴むと、大きな手が私の手を包むように重なった。大切な物に触れるような触れ方だった。

思えば出会った時からいつも三田村君が私に触れる時は大事そうに触れてくれた。そんな三田村君だったから、拒絶反応が出なかったのかも。

「妃奈子さんの手、温かくて小さい」
「三田村君の手は大きいね。私、三田村君に触れられると、いつもほっとするの」
三田村君の手を取って頬ずりをすると、滑らかな肌の感触と男性らしい骨張った硬さが伝わってくる。
「この手が私を守ってくれて、安心感をくれるの」
「妃奈子さん……」
「最初から三田村君には触れられても嫌な感じしなかった。きっと三田村君の手が私を傷つけるものじゃないって伝わっていたから」
「妃奈子さん、俺をまた感動させるんですか? そんな事言われたら嬉しくて、俺……」三田村君が感激したように言葉を詰まらせる。そんな三田村君が愛しくて、私から三田村君の方に振り向いて、強く抱きしめた。

「三田村君と出会えて本当に良かった。悲しい事もあったけど、生きていて良かったなって思う。三田村君、私を守ってくれてありがとう」
「妃奈子さん、俺、一生かけて妃奈子さんを守りますから。沢山、幸せにしますから」
「私も三田村君を幸せにするから。だから、そろそろ話してくれない?」
「何を?」
「身の振り方を決めから私に会いに来たんでしょ? それって今度の選挙に出る事?」

黒い瞳が左右に揺れた。

「知ってたんですか」
「母から電話をもらった時に聞いたの。三田村君が母の地盤を継ぐって。どうして政治家を目指そうと思ったの?」
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