私のボディーガード君
 カラオケ店を出た後は花里さんが昨夜、手配してくれたタクシー会社まで友美と車で移動し、タクシー会社の人から意外な話を聞いた。

「本当ですか? 昨日の23時頃、『カラオケ紫式部』から乗ったはずなんですが」

 私の言葉に女性事務員は確認するようにパソコンの画面を見た。

「お客様を乗せた記録はありませんね。確かにカラオケ店までお迎えに行きましたが、お客様はいなかったと報告があがっています」

 という事は私は手配してもらったタクシーに乗らなかったって事?

「ひな、酔ってフラフラとどこかに行くクセがあるから、ありえるかも」
 隣で腕を組みながら探偵のような顔つきを浮かべる友美が言った。

「じゃあ、私はどうやって帰ったの?」
「流しのタクシーを拾ったか、男の人の車に乗ったんじゃないの?」

 微かに黒のSUVに乗った記憶が蘇る。
 そう言えば、横断歩道を渡っていたら危ないからって声をかけられて、言われるまま車に乗った気がする。それで住所を聞かれて……。

「私、あの人の車で帰ったんだ」
「思い出したの?」
 友美に見つめられ、頷いた。

「うん。SUVの後部座席に乗って、住所を言った後は寝ちゃった気がする」
 友美が大げさに瞬きをする。

「えー! 知らない人の車に乗って眠っていたの? いくらなんでも無防備過ぎる。男の人が親切な人だったから良かったけどさ」

 こうして思い出してみると、あの男はいい人だったんだ。
 私、お礼も言っていない。連絡先、ちゃんと聞けば良かった。
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