私のボディーガード君
冬休み明けの大学は講義の他に会議もあって忙しかった。
昼休みは会議で潰れ、若林さんと交流を深める事もなく午後も講義。そしてようやく本日最終講義の「平安文化論」。

50名程が入る小さな講義室に行くと、後ろから前まで席が埋まっていた。冬休み明けなのに出席率が高い。どこかの先生の講義は履修している学生の半分以下しか今日は出て来なかったと会議の時に聞いたから、私の講義を取ってくれている学生は真面目な子が多いんだろう。

みんな、私の講義を聞きに来てくれてありがとう。
そう思いながらマイクの電源を入れて、講義を始めた。

今日は香りについての話だ。

「『日本書記』に594年の4月頃、日本に初めて香木が漂流した時の記述があります。淡路島の浜辺に打ち上げられた木を燃やすと、とてもいい匂いがしたそうです。それを朝廷に献上すると大そう喜ばれて、正倉院の宝物殿に現在も香木が納められています。ここから日本の香り文化が始まったという訳です。平安時代になると香りを日常生活に取り入れるようになりました。貴族の間では『薫物合(たきものあわせ)』という、自分で作った香りを競う遊びが流行しました。『源氏物語』32帖『梅枝(うめがえ)』のエピソードでは光源氏の娘、『明石の姫君』が東宮に入内(嫁入り)する事になり、その時に持たせる薫物の調合を四人の女性たちに競わせるという話があります」

香りの話をしながら、ふと三田村君から香るムスクの匂いを思い出した。どうやらあの香りは三田村君が使っている整髪料の匂いらしい。一緒に暮らしてそれがわかった。三田村君の黒髪はかなりのくせっ毛らしく、寝起きの三田村君は寝ぐせがツンツン立っていてすごい。同居2日目にそれを目撃して、爆笑してしまった。

今頃、三田村君どうしているかな。今日の夕飯は別々で取る事になっている。三田村君、家にいないのかな?

二週間ずっと一緒だった三田村君がいないのは何だか寂しい。
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