隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて

ペット免除の代替案

 食事を終えると、言われた通り食器はキッチンのシンクに運ぶ。
 きれいに掃除されているらしく、白いキッチンカウンターは清潔そのものだ。

 その中で、流しに置かれた食器たちだけが、まるで忘れ物のようだ。

「そういえば、部長にお礼言いそびれちゃったな……」

 部長の口ぶりからすると、おそらく“ペットを部屋で連れて帰った”みたいな感覚なのだろう。
 しかし、どんな状況だろうと酔っていた私を部屋に連れ帰り、ベッドで寝かせてくれたのは事実なので、きちんとお礼は伝えたい。

「それにしても、綺麗な部屋……」

 キッチンからリビングダイニングをぐるりと見てみる。
 ごみ一つ落ちてない、綺麗な部屋。
 ごみだけでない。スタイリッシュな家具の並べられた部屋の中、テーブルやフロアマットはきちんと角がそろっていて、一ミリも曲がっていない。
 まるで、モデルルーム。

 そんな部屋の中で、やっぱりシンクに置かれた食器たちは、居場所を無くした孤児のよう。

 お礼も兼ねて、洗っておこう。
 私は腕まくりをして、皿洗いに努めた。

 *

 すべてのお皿を洗い終えて、ふう、と一息つく。
 改めて見回してみる。広くて綺麗な部屋だ。

 私の住んでいる1Kが二つくらい入ってしまいそうなリビングダイニング。その向こうに寝室がある。
 寝室も私の部屋くらいの広さだったから、私の部屋の三倍はある広さの部屋。
 すべてがきれいに片付いていて、自分の散らかった部屋を思い出し思わず苦笑いが漏れた。

 ふと、リビングのソファに目が留まった。
 私の鞄が置いてあったのだ。

 改めて部長に申し訳なかったなと思いながら、ソファの元へ。すると、ローテーブルの上にメモ書きが置いてあることに気が付いた。
 そこには、風呂を使っていいこと、タオルや着替えの場所等が書かれている。

「抜かりないっていうか、さすが部長だなぁ……」

 留守番しろと言われれば、この部屋にいなければならない。
 本当は一度帰って着替えたいけれど、鍵もなければ家を出られない。

「ここは、お言葉に甘えよう」

 私はお風呂を借りることにした。

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