隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 シャワーを簡単に浴び、部長が用意してくれていた部屋着に着替える。
 と言っても、用意してあったのは部長のTシャツで、大柄な部長のサイズは男性物のLサイズ。
 成人女性の平均ほどの身長しかない私が着ればワンピースのようになってしまう。
 何の変哲もないけれど、部長の匂いのするTシャツに袖を通すのはドキドキした。

 着ていた服は洗濯機を借りて洗濯中だ。
 下着は昨日、真宙にもらったものをつけた。まさか、こんなにすぐに使う日がやってくるとは思わなかった。

 それらをすべて終えてもまだ午前十時半。
 することもなく、ソファに座ってスマホを取り出した。

 それでも、気になるのは昨夜のこと。
 ――私は、本当に『部長のペットになる』だなんて大胆なことを言ったのだろうか。
 それに、それをあの部長が承諾した、だなんて……。

 いつものオフィスでの部長を思い出す。
 いるだけで、オフィスの空気を引き締める、冷徹だが仕事の出来る、強い人。尊敬する上司。

 けれど同時に、昨夜公園で見かけた光景が脳裏によみがえる。
 猫じゃらしを手に、白猫と遊ぼうとしているのも、間違いなく部長だった。

 ふと、ソファに置かれているクッションに視線を向ける。
 毛の長い、モフモフとした白いクッションだ。

 ――もしかして、これ、猫のつもり……?

 なんとなく膝の上に乗せてみる。長い毛がほんのり温かく、なんとなくラグドールを思わせる。
 丸まっている猫のようで、思わずクッションを撫でる。
 もしかして、部長もこうやって癒されているのかな、なんて想像をして、思わずふふっと笑ってしまった。

 ――部長、本当に猫が好きなんだな。

 もしかしたら、私をペットだなんて言ったのは、猫が飼いたいけど懐いてくれない、という部長のちょっとした寂しさからだったのかもしれない。

 そんなことを考えていたから、私はあることを思いついた。

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