隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
「部長、おかえりなさい」

 その日の昼過ぎ、洗濯乾燥機のおかげですっかり乾いた自分の服を着て、帰ってきた部長を出迎えた。

「なんだ猫宮、すっかり酔いは醒めたようだな」

 部長は会社で見せるぶっきらぼうな顔のまま、自身の首元に手を持っていく。
 そのまま流れるようにネクタイを緩め、靴を脱ぐと玄関で出迎えた私の横を通って部屋に上がる。
 まるで、私が“この部屋にいるのが当たり前だ”とでもいうように。

 部長はそのまま寝室の方へ向かったので、私も慌てて彼を追いかける。
 部長は立ったまま、椅子の上に鞄を置くと、ジャケットの胸ポケットからスマホを取り出しテーブルの上に置いた。
 無駄のない動きに、思わず見惚れてしまう。

「あ、あの……、ありがとうございました」

 まずはお礼を伝えなければと、私は寝室の入り口でペコリと頭を下げた。

「何がだ」

 部長が怪訝な顔でこちらを向く。

「昨夜、泥酔したところを助けていただきました。それに、美味しい朝ご飯までいただいてしまって……」

 部長は「そんなことか」と言い、フっと笑う。

「まあ、猫宮を助けたというよりは、迷い猫を拾った感じだがな。朝飯が口にあったのならよかった」

 部長はそう言いながら、ポケットから財布を取り出してスマホの隣に並べて置く。

「昼はまだだろう? 外に食べに行かないか?」

 部長はそう言いながら、クローゼットを開ける。

「皿を洗ってからになるが。少し待っていてくれれば――」

「お皿なら、洗っておきました」

 するするとネクタイを外し、ワイシャツのボタンにかけていた部長の手が止まった。
 そのまま、部長がこちらを向く。その目が、見開かれている。
 見慣れぬキョトンとした部長に、私も一瞬目を見張ってしまった。

「朝食の、お礼です……」

 思わず目を泳がせ、壁の辺りを見ながら言った。

「そうか」

 部長は低い声でそう言うと、急にこちらに歩みを向ける。

 ――やばい、やってしまったか。

 そう思ったのに、部長の手は私の頭にまっすぐ伸びてきた。
 どうやら私は、部長に頭を撫でられているらしい。

「よくできたペットだ」

 部長の言葉に、やっぱり私はペット認定されているのだと改めて思い知る。

「部長、そのことなのですが」

 頭を撫でられたまま、ぐいっと顔を上げた。
 無表情の部長と目が合う。

「助けていただいたうえでおこがましいお願いであることは承知です。そのペットというの、辞めさせていただくことは可能でしょうか?」

 業務連絡のように告げることができて、ほっとしたのもつかの間。

「代替案はあるのか?」

 部長も、まるで業務連絡のように淡々とそう言った。

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