隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 その日も、私は部長と二人きりで残業をしていた。
 原因はわかっている。度重なるミスのせいで、仕事が進まなかったのだ。部長は今は隣の席で、私の作業を見ながら手元のタブレットで何かを確認している。

「部長、あの――」

「何だ?」

 話かければ部長はいつもの口調で聞き返す。私はパソコンに向かったまま、言った。

「……先に、帰っていただけませんか?」

 堂々と、淡々と言うつもりだった。
 けれど、思ったよりもか細い声で、しかも語尾は尻すぼみになってしまった。

 情けない。
 けれど、ここ最近の自分の初歩的ミスの方がもっと情けない。

 部長はいつも余裕で、冷静で、周りをよく見ている。
 私とは月とすっぽんだ。いや、それだとすっぽんに申し訳ない。

 そのくらい、自分が情けない。
 そんな情けない自分が、部長の隣にいることで、もっとみじめになってしまう気がした。
 部長から出るオーラに、自分が消えてしまうような気がした。
 誰もいないオフィスで、淡々と仕事がしたかった。

 けれど、部長は首を横に振った。

「俺も仕事があるからな」

 私の落胆の視線をよそに部長はそう言うと、「明日、宮本に持っていかせる見積書は終わってるか?」と淡々と仕事の話を始める。

「はい、宮本さんのものなら、後はフォルダに共有するだけですけど―――」

「それ、今頼めるか?」

「はい」

 慌ててファイルを共有し、終えたことを部長に報告する。

「助かる」

 部長はそれだけ言うと、タブレットをタップし立ち上がる。
 印刷機が動いた音がして、私も慌てて立ち上がった。

「印刷なら私が」

 言うがはやいか、部長はすでに印刷機の前で待機している。

「猫宮は猫宮の仕事をしろ」

「でも、営業事務は営業部の事務作業を――」

「あのなあ」

 印刷が終わったらしい。部長はそう言うと、隣のデスクを資料で叩く。資料がパサっと音を立てた。

「営業事務だって手一杯のときは、営業がやればいい。いちいち線引きしてたら、終わる仕事も終わらないだろう」

 部長はそう言いながら、席に座り紙ベースになった資料に目を落としていた。

 以前、二人で残業していたときも同じようなことを言われたのを思い出した。
 部長の柔軟な考え方は、部長が部長たる所以の一つなのだろう。

『それが上に立つ立場の者としての、あるべき姿だからだ』

 以前、部長が言っていたことだ。
 上に立つ立場の者として。部長はそれを常に考え行動している。
 やっぱり部長は、強くて完ぺきな、私の憧れだ。

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