隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
七月の末日。その日、部長は午後から社外で会議らしく、直帰だった。
そのせいもあり、オフィスの空気はどこか軽い。
けれど、私の気持ちは重かった。
明日は、母の命日だ。
あの日の光景を思い出すだけで、いまだにぞっとするし、母親への憎悪は消えない。
だから、夏はあまり好きじゃないし、この時期はいつも鬱憤としてしまう。
夏の日が入り爽やかに稼働するオフィスの皆の中で、自分だけが重たい気分をまとっている気がする。
私は気分転換に席を立った。
*
「猫宮さん、明日からどこか行くの?」
給湯室でコーヒーを淹れていると、ちょうど案内から戻ってきたらしい靖佳さんに声をかけられた。
「明日有休取ってたでしょ? 金曜から三連休なんて、どこか旅行かな、なんて思ったんだけど」
「まあ、えっと、実家に帰るんです」
「お盆休みもあるのに?」
「まあ、そうですね」
あまり追及されたくなくて、適当に苦笑いを浮かべて言葉を濁した。
親不孝と思われるかもしれないけれど、私もお盆休みと同じでいいと思う。けれど、それは祖母が絶対に許さない。
母親の死んだ日は、私にとって衝撃的な日になった。祖母にとっても、同じような日なのだろう。
自分の子供が自分を差し置いて、先に命を落とすということの無念さを、私は分からない。
けれど、だからといって祖母に文句を言うのは筋違いだ。
私は母が死んでかわいそうな子なんだよ、と自分の意見を通すほど、私はもう子供じゃない。
子供の時に、散々そうやって祖母を困らせた。
だから、母の命日に実家に帰るのは、これだけは譲れないという祖母への、私なりの償いだ。
「お盆休みは別の予定があるなんて、リア充~」
靖佳さんはそう言って笑いながら、「あ!」と声を上げる。
「猫宮さん、せっかくだから今日の午後から休み取っちゃったら? 部長もいないし」
「え? でも……」
反論しようとした私に、靖佳さんはニコリと微笑みかける。
「申請承諾は後からでも可能。旅の前日はゆっくりした方がいいでしょ?」
でも、仕事が残っている。
けれど、靖佳さんは私が反論するだろうことはお見通しらしい。
「猫宮さんの仕事は私がもらう。熊鞍さんのことで助けてあげられなかったから、このくらいさせて?」
申し訳なさそうに眉を下げられ、こちらも申し訳なくなってくる。
靖佳さんの好意を無下にできなくて、結局私は午後休を取り、その日は午前中で帰宅した。
そのせいもあり、オフィスの空気はどこか軽い。
けれど、私の気持ちは重かった。
明日は、母の命日だ。
あの日の光景を思い出すだけで、いまだにぞっとするし、母親への憎悪は消えない。
だから、夏はあまり好きじゃないし、この時期はいつも鬱憤としてしまう。
夏の日が入り爽やかに稼働するオフィスの皆の中で、自分だけが重たい気分をまとっている気がする。
私は気分転換に席を立った。
*
「猫宮さん、明日からどこか行くの?」
給湯室でコーヒーを淹れていると、ちょうど案内から戻ってきたらしい靖佳さんに声をかけられた。
「明日有休取ってたでしょ? 金曜から三連休なんて、どこか旅行かな、なんて思ったんだけど」
「まあ、えっと、実家に帰るんです」
「お盆休みもあるのに?」
「まあ、そうですね」
あまり追及されたくなくて、適当に苦笑いを浮かべて言葉を濁した。
親不孝と思われるかもしれないけれど、私もお盆休みと同じでいいと思う。けれど、それは祖母が絶対に許さない。
母親の死んだ日は、私にとって衝撃的な日になった。祖母にとっても、同じような日なのだろう。
自分の子供が自分を差し置いて、先に命を落とすということの無念さを、私は分からない。
けれど、だからといって祖母に文句を言うのは筋違いだ。
私は母が死んでかわいそうな子なんだよ、と自分の意見を通すほど、私はもう子供じゃない。
子供の時に、散々そうやって祖母を困らせた。
だから、母の命日に実家に帰るのは、これだけは譲れないという祖母への、私なりの償いだ。
「お盆休みは別の予定があるなんて、リア充~」
靖佳さんはそう言って笑いながら、「あ!」と声を上げる。
「猫宮さん、せっかくだから今日の午後から休み取っちゃったら? 部長もいないし」
「え? でも……」
反論しようとした私に、靖佳さんはニコリと微笑みかける。
「申請承諾は後からでも可能。旅の前日はゆっくりした方がいいでしょ?」
でも、仕事が残っている。
けれど、靖佳さんは私が反論するだろうことはお見通しらしい。
「猫宮さんの仕事は私がもらう。熊鞍さんのことで助けてあげられなかったから、このくらいさせて?」
申し訳なさそうに眉を下げられ、こちらも申し訳なくなってくる。
靖佳さんの好意を無下にできなくて、結局私は午後休を取り、その日は午前中で帰宅した。