隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 美味しいお肉をいただきながら何杯目かのビールを飲む。
 終始話しかけてもらえて退屈はしないが、彼らの近さには慣れなかった。
 けれど、靖佳さんも熊鞍さんも彼らと同じような距離感で話しているので、これが普通なのだろう。

「猫宮ちゃん、足りてる?」

 相手の男性に、お肉のお皿とおかわりのお酒を差し出される。

「すみません、もうそろそろお腹いっぱいで」

 正直に言えば、彼は「全然、むしろ気が利かなくてごめん!」と自身の口にお肉を放った。
 距離感は近いが、男性陣は皆優しかった。
 先ほど、熊鞍さんと靖佳さんが小声で「今日の相手はアタリだね」と耳打ちしてきたのにも納得である。

「お酒は?」

 お肉を食べてもらった手前申し訳なくて、「じゃあ」とジョッキをもらう。
 すると、「もう一回、乾杯」とジョッキを合わせられる。
 彼と一緒に、ジョッキを口元へ運んだ。

 すると、不意にふらりと体がよろけた。
 男性の手が、私の腰を支えてくれた。
 すみません、と言おうとして、先を越された。

「大丈夫? 座る?」

 椅子を引かれ、おとなしく座らせてもらう。すると男性も隣に座る。
 気を遣ってもらっているのが分かって、やっぱり「すみません」と言ってしまった。

「全然。お酒、弱いの?」

 首をかしげて顔をのぞき込まれる。
 こうやって気を遣ってくれるのが部長ならいいのに、と思ってしまい、慌てて脳裏に浮かんだ部長の顔を頭から振り払った。

「普通だと思うんですけど、最近ちょっと寝不足だったからかな、酔うのが早いみたいで……」

 えへへと笑って言うと、彼はニコリと笑った。

「お水、もらってくるね?」

 しばらくして、水の入ったグラスを手に彼が戻ってきた。
 私はそれをぐーっと飲み干す。

「気分が悪かったら早めに言って?」

「大丈夫です、そこまでは――」

「ダーメ。寝不足だって頑張ってる証拠でしょ? それに、猫宮ちゃんと抜け出せたら、それはそれで俺的にはラッキーっていうか……」

 照れくさそうに笑う彼に、ドキリと胸が鳴る。
 これは、そういうことなのだろうか。

 ――部長を忘れられるなら、それもいいのかもしれない。

 ふふっと笑うと、意識がふわふわしてくる。
 同時に、頭がくらくらとしてきた。

 頭がふわっとする感覚に襲われて、気が付けば、私は意識を失っていた。

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