隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて

例えそれがエゴだとしても

 いくらか落ち着き、乱れた服を直して、虚空な部屋を出た。
 部長に「羽織ってなさい」と言われ、ジャケットは借りたまま羽織らせてもらう。
 部長に包まれているようで、とても安心する。

 部長がタクシーを捕まえ、共に乗り込んだ。
 私が何かを言うまもなく、部長は行き先を運転手に告げる。
 タクシーが静かに走り出す。

 部長は何も喋らない。
 だから、私も何も話せずに、ただ通り過ぎる街並みを窓から見つめていた。

 *

 タクシーが着いたのは、部長のマンションだった。

「部長、私は、帰りますね! ここからなら、歩いて――」

 マンションのエントランスの前でそう言ったのに、部長に腕を掴まれた。

「今日はうちに泊まりなさい」

 無愛想な言葉の裏に、彼の優しさがあるのを知っている。
 私を心配してのことなのだろうけれど、私はこれ以上部長に甘えてはいけない。

「お世話になりっぱなしなので、私はこれで――」

「最後まで、世話をさせてはくれないのか?」

 部長の言葉は、私を引力のように引き寄せる。
 ズルい。

 私は、まだ部長のペットで、部長は私の飼い主だ。
 勝手に家を出ていったものの、その関係を解消しようとは私も部長も言っていない。
 自然消滅させようとしたのは私だ。

 胸が痛むのは、私はペット(それ)以上にはなれないから。

 それを分かっているのに、そう言われてしまっては断れない。
 私は大人しく、部長に掴まれた(リード)に従って、部長の部屋に上がった。

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