隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて

ヒーローとモンスター

「部長が、好きなんです。でも――」

 羽織っていた部長のジャケットがはらりと床に落ちる。
 腕を回した部長の背中は思ったよりも大きく、男性を感じる。
 それで、余計に『好き』と伝えてしまったことが虚しくなる。

 ――私は、ただのペットなのに。

 けれど、回した腕は離せない。
 きゅっと少しだけ力を込めると、部長の手が私の手に重ねられる。
 それだけで、胸がおかしいくらいに跳ねる。

 ああ、好きだ。
 こんなにも、好きなんだ。

「『でも』――?」

 言いかけた続きを促され、言葉に詰まった。
 けれど、言いたいことは言葉にしなければ伝わらない。

「部長の『好き』が、分からないんです……」

「それは、俺の愛情表現の問題か?」

 部長が私の手をきゅっと握る。
 そこに込められた愛情は、感じられる。
 違う、そうじゃない。

「部長が私を大事に思ってくれてるのは、分かってるんです。けど、それは私がペットだから、……です、よね?」

 言いかけて、自分でどんどん虚しくなっていって、目頭が熱くなって、涙がこぼれそうになって、言葉が続かなくなってしまった。
 なのに。

 部長はくるりと身をひるがえす。
 そのままそっと腰を曲げて、私のおでこに優しく唇を落とした。

「猫宮をペットだと言ったのは、猫宮を俺の元に置いておくための口実だ。それに――」

 部長の腕が、私の背中に回る。
 目が合う。
 その真剣な瞳から、目が逸らせなくなる。

「お前をペットだと思ったことは一度もない。今は、俺の中では一番愛しい女性だ」

「嘘……」

 信じられなくて、目を見開いた。
 部長が、優しく目を細める。
 それだけで、胸がいっぱいになる。

「もし猫宮が、俺と同じ気持ちなら――」

 その言葉の先を期待して、ごくりと唾を飲み込んだ。
 けれど、私は顔を伏せてしまった。

 部長の前で、泣き虫になってしまう自分が嫌だった。
 部長の隣にいることで、私は弱くなってしまう。

「猫宮?」

 腰を折った部長に顔をのぞき込まれて、ふいっと逸らせてしまった。

「私は、部長とお付き合いはできません」

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