隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 また目頭が熱くなった。
 自分で決めて、自分でした発言に泣くなんて。

 馬鹿みたいで、虚しくて、悔しくて、そんな弱々しい自分が嫌になる。
 けれど、ほろりと涙が零れたら、もう止まらなくて。
 慌てて首元を両手で包んで、泣かないようにとおまじないをかける。

「私は、弱いから……、部長といると、甘えてばかりです。そんな自分が嫌で、強くなりたくて、だから――」

 言いかけて、部長の手がそっと私の手に重ねられた。
 そのまま私の首元から、私の手をそっと放す。

「甘えるのも、弱いのも、悪いことじゃない」

「でも――」

 ――弱い人間は、周りの人間を不幸にする。

 幼いころに私にかけられたその呪縛のような言葉が、消えない。
 弱いままの私は、いずれ部長を不幸にしてしまう。

 そっとはがされた手は行き場を失って、私の両側でこぶしになる。
 ぎゅっと握れば、爪が手のひらに食い込んでくる。
 痛い。無意識に、部長を失うことの痛みをごまかそうとしているのだと気づいて、また情けなくなる。
 今度は下唇をぐっと噛んで、涙を堪えた。

「でも、弱い人は周りの人を不幸にします。私は、恋愛云々言う前に強くならないと――」

「その必要はない。猫宮は、十分強いじゃないか」

 部長に言葉を遮られる。
 その言葉の意味が分からなくて、私は黙ってしまった。
 すると、部長が続けた。

「幼いころに、母親が亡くなったんだそうだな。それから、猫宮はずっと一人で耐えてきた……違うか?」

 ――どうして、部長がそのことを?

 思わず顔を上げると、部長の悲哀の瞳と視線がぶつかる。
 慌ててもう一度うつむいた。すると、部長がさらりと私の頭を撫でた。
 大きな、優しくて温かい、私の大好きな温もりだ。

「勝手に聞くのは悪いと思った。――だが、結城(ゆうき)さんにいろいろと教えてもらったんだ」

 ――翔也お兄ちゃん、か……。

「猫宮は、抱え込むタイプだと思っていた。が、腕の傷を見てしまってから、……そうなってしまった背景を、俺なりにいろいろと考えていた。そんな時に、結城さんが現れた。猫宮と、幼馴染だそうだな」

 こくりと頷く。

「結城さんは猫宮のことを、心配していた。自分の言葉で、猫宮を縛り付けてしまったのではないか、と」

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