隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 部長は懐かしむように目を細める。
 私の脳裏にも、部長と出会ったあの日の光景が浮かんだ。

 酔っていたけれど、覚えている。

 公園のベンチに腰掛け、自前の猫じゃらしで、シロと戯れようとしていた部長。
 私がシロを背を撫でると、羨望のまなざしでこちらを見ていた。
 隣に座って、シロを差し向けたら威嚇されていた。

『私が猫だったら、迷わず部長を信頼して、すり寄るのに』

 あの時、部長に言った言葉まで鮮明に思い出せる。
 言葉の通り、あの時の私は部長に心の底から憧れ、尊敬していた。それは、今もなお続いているが。

「猫宮が俺に頭を預けてきたのは、予想外だったが……、俺にとっては、チャンスだった。これしかないと思った」

「私が、『部長のペットになる』だなんて言ったから……」

 部長はそう言いかけた私の言葉に、ふっと笑う。
 それから、「それな、――」とこちらを見つめる。
 その優しい瞳にとらえられ、胸がドキリと高鳴る。
 目が離せなくなる。

 なのに。

「猫宮は、『部長のペットになる』だなんて、一言も言っていない」

「…………え?」

 思わず部長の瞳を凝視した。
 申し訳なさそうに、彼が目を伏せて、それが事実なのだと悟った。

「じゃあ、何で……? 私を、ペットだなんて――」

「俺のエゴだ。猫宮は酔ってはいたが、そんなことは一言も言っていない。……悪かった」

 謝られても、どんな顔をしていいのか分からない。
 何度か瞬きをして、自体を飲み込もうとするけれど、部長の意図がよく分からずに、混乱してしまうだけだった。

「最初は、猫宮の近くにいれば助けてやれると思ったんだ。その想い自体が、俺のエゴだが」

 部長は社長にしてもらったように、私を救い出そうとしてくれた。
 自分ではピンとこないけれど、部長が最初からやや強引でありながらも優しかった理由に合点がいく。

「だが、猫宮をそばで見ているうちに、自分の中に別の感情が生まれた」

 急に、部長の声が低く、太くなる。
 いつの間にか、部長の腿に乗っていたクッションは横にどけられ、代わりにそこに肘が乗っていた。
 その格好は、まるで最初に出会った時の部長の姿を彷彿とさせる。

 けれど、部長から私に向けられた感情は、あの頃彼がシロに向けていたそれとは違うのだと、はっきりと分かる。
 勝手に胸が高鳴り、余計に胸が苦しくて、早くその続きを、と、気持ちが急いてしまう。

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