隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 私は、続きを言いよどむ部長の手に、そっと自身の手を乗せた。
 続きを、早く聞かせて、と。

 部長の手がぴくりとと揺れ、彼の緊張が伝わってくる。
 けれど、私も負けないくらい心臓が飛び出しそうになっている。

 部長はそのまま、そっと続きを話し出した。

「失いたくない、と思った。猫宮のことを大切に思うのは、自分に似ているからだと思っていた。だが、それだけではこんなに心をかき乱される理由にはならないことくらい、俺もわかる。俺は、特別な『好き』の感情を猫宮に抱いている」

 やけに真剣な声色に、胸の高鳴りが最高潮に達する。
 部長の言う『特別な好きの感情』は、ペットに対する愛情とは違うものなのだと、ちゃんとわかる。

 だから、早く続きが欲しい。
 わがままになってしまった私は、部長の手の上に重ねていた自分の手で、きゅっと部長の手を握る。

「猫宮が俺の家から離れていって、もう一度シロに交流を試みたがうまくいかないし、猫宮と話そうと思っても何を話していいか分からない。いつの間にかピリピリして、こんな自分は皆の前に立てないと、オフィスによらないようにしていた。そのせいで……、猫宮を、大変な目に遭わせてしまった」

「部長のせいじゃないです!」

 ため息とともに小さく肩を落とす部長に、気づけばそう言っていた。
 私が悪い。
 一人で、立ち向かえなかったから。

「だが、猫宮のせいでもないだろう」

 思わず「え?」と小さく漏らす。
 すると、部長が私の手を振りほどき、そのままその大きな腕で私を優しく包み込む。

 突然抱きしめられて、胸がおかしいくらいに高鳴る。

「猫宮のことだ。自分を責めたのだろう? 甘えていてはだめだと、思っているのだろう? だが、俺は――」

 部長の私を抱き寄せる力が強くなる。
 部長の腕の中で、私はただ黙っていることしかできない。

「猫宮には心の糸を、弛めてほしいと思う。絡まってもいい。絡まったら、俺がほどく。いつでも、俺がほどく。これは、一緒に住んでいた間中、いつも俺の心の糸をほどいてくれた、猫宮への恩返しでもあるし――」

 部長は少しだけ言葉に詰まる。
 その間に、部長の手の温度がじわりと熱くなったような気がした。

「猫宮の心の糸をほどくのが、他のヤツだったら嫌だ、という思いもある。猫宮の心を癒すのが、俺であってほしいと思っている。……猫宮にとってのそういう存在に、俺はなれないだろうか」

 語尾は切羽詰まったように小さくて、今まで聞いたことのないような声に、憧れである『部長』ではない彼を感じる。

 ――そうか、部長だって、ただの人なんだ。

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