隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 部長は、憧れの尊敬する人だ。
 でも、スーパーヒーローじゃない。
 中身は私と同じで、生きた人間だ。
 今、私を包んでいるのは、『部長』じゃない。
 私に好意を寄せる、ただ一人の男性なんだ。

 どこか遠くにいる、憧れの強い人。
 だから、弱い私が隣にいるのはおこがましいと思っていた。
 部長におんぶにだっこで、甘えっぱなしで、情けないと思っていた。

 その思いが、自分の気持ちにセーブをかけていた。

 けれど、彼だって普通の人だ。
 目の前で、ただ私に癒しを求める、ただの一人の男性だ。

 そう思っても、部長への想いは消えなかった。
 確信した。私の想いは、憧れじゃない。ちゃんと、部長が『好き』なんだ。

「俺は、猫宮の言う『甘え』とか『弱さ』を互いに補うのではなくて、互いの絡まった糸をほどき合うような『共生関係』でいたいと思うんだ」

 その部長の言葉に、私はもぞもぞと顔を上に向けた。
 見下ろしていた部長と、目が合う。

「部長、私……部長が、好きです。だから、お付き合いを――」

 言いかけた言葉は、部長の唇に飲み込まれた。
 突然の、でも優しい口づけに、心の緊張が解けていく。
 きっとこれが、私の心の糸を弛めていく作業なのだろう。
 けれど、幸せで満たされて、涙が溢れた。

 ――幸せな時に、私も泣けるんだ。

 どこか冷静にそんなことを思っていると、突然視界が反転し背中にソファが当たる。
 天井の手前に部長が見えて、ソファに押し倒されたのだと気づいた。

「好きだ。――瑠依(るい)

 耳元で囁かれた、初めて呼ばれた自分の名前に、胸がキュンとなる。
 私も『好き』を伝えたくて、部長の名前を呼ぼうとした。
 けれど、それより先に部長に口をふさがれる。何度も何度も、甘くとろけるようなキスが唇に降ってくる。

「ありがとう、瑠依。――俺は、幸せだ」

 細められた目、少し紅潮した頬、すべてが愛しい。

 ――私も、幸せ。

 そう思った刹那、身体がふわんと浮く。
 横抱きにされ、寝室まで誘われる。そのままベッドの上にそっとおろされれば、優しく甘いキスが身体中に降ってくる。
 その晩、まるで壊れ物を扱うかのように優しく、私は部長に抱かれるのだった。

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