隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 日差しの差し込む気配がして、意識が浮上する。
 まだ眠っていたいと寝返りをうち、頭から布団をかぶる。

 はっとした。
 これ、私の布団じゃない!

 ガバっと起き上がると、ベッドのスプリングがきしむ。ふわふわとしたマットレスに、ここが私の部屋でないことを確信した。

 きょろきょろと部屋を見回す。
 きれいに片づけられた部屋の中には、統一感のあるダークカラーな木目調のシックな家具たち。
 その机の背に掛けられたスーツのジャケットに気付いて、目を見張った。

 ――ここ、部長の部屋……っ!

 それから慌てて自分の体を見下ろす。

 ――服は着てる、セーフ!

 そう思ったのもつかの間、全然セーフでないことに気づく。
 昨夜、酔ったまま寄った公園で、部長と会って、その後の記憶がない。おそらく、寝てしまった。
 ということは、部長がわざわざ私を自分の部屋まで運び、自分のベッドに寝かせてくれたということだ。

 ――大問題すぎる!

 一人で立つ、強い人間であれ。
 そう胸に誓って生きているはずなのに、真逆な行為をしてしまい、みっともない。
 それも、職場の上司に迷惑をかけてしまうだなんて。

 罪悪感と申し訳なさでいっぱいになりながら、そうっと部屋を出た。

 隣の部屋から物音がして、そちらの方へ向かう。
 部長がいたら、即土下座だ。そう、心に誓って。

 隣の部屋のドアノブを回す。
 思い切って、ドアを開く。

 思い切り頭を下げて、「ごめんなさい!」と、言うはずだった。

 けれど、私はその先にあった光景に、思わずぽかんと立ち尽くす。

「おはよう、よく寝ていたな」

 こちらに気づいた部長が、私に視線を向けてそう言った。
 白いワイシャツに、ブルーのエプロンを着けた部長。その手には、フライ返しを握っている。
 フライパンで焼いていたらしい鮭が、ちょうどお皿に盛られたところだった。

 立ちすくむ私をよそに、部長はてきぱきと朝食の準備をしていく。
 鮭の皿をダイニングテーブルに乗せると、今度は湯気の立つ味噌汁を椀に盛り付ける。
 最後に炊き立てなのか、艶やかなご飯を茶碗によそうと、エプロンを外してダイニングテーブルに座った。

 その一連の流れが、あまりにも違和感がなさ過ぎて、逆に違和感を感じる。

「えっと、あの、部長……?」

「どうした、突っ立って。猫宮も座って、食え」

 部長は顎で目の前の席を指し示す。
 どうするべきかおどおどしていると、部長は早々に「いただきます」と手を合わせていた。

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