推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
 ちょっと考え込んでる様子を見せるので、申し訳ない気持ちになってきた。関係ない人を巻き込んではいけない。
「ごめんごめん変な話を……」
「時間が解決するしかないのかなぁ」そんな真面目な声を出す。
 そうだよね。大人になってから本当にそう思う。つらい想いは無理に忘れるより自然に忘れる方が想い出になる。
「弟さんが話をしてスッキリするタイプなら、いっぱい話を聞いてあげたらいいし、放ってほしそうならいつも通り過ごせばいいし。悲しい気持ちは本人にしかわからないから」
 そんな事を言われてしまった。大人の正論です。
「新しい相手が出てきたら、きっと忘れられるよ」笑顔で答えてくれた。塩系の顔でちょっと見はとっつきにくいイメージだけど、真面目で人の事を思いやれる同期です。
「ありがとう」頭を下げてお礼を言った私だった。

 ワリカンにしようと言ったけど、先月の残業代が多かったとのことで、しっかりごちそうになり、そのまま駅まで送ってくれた。
 背が高い。専務と同じくらいだろうか。少し先の大きな会場でライブがあって人の波があった。
「迷子になるなよ」
 手を握られた。手を繋いで一緒に歩く。大きな温かい手だった。私より彼の方が緊張しているようだ。いつも私をからかって自信満々な人なのにと思うと可愛らしくなってくる。ちょっと笑うと「なんだよ」って怒った顔をする。
「琉希みたいなモテる人が、どうしてこんな私に声をかけてくれるの?」
 駅が見えてきたタイミングでそう言うと
「咲月っていつも自分に素直で、感謝の言葉をすぐ言うし、自己評価低いけど、優しくて、話をしていても自然に過ごせるし、職場の話もできるし、もう少しふたりで過ごしてみたいなぁって思ったら、誰にも渡したくなくなってきた。つまり好きになったって話」
「ありがとう。すごく恥ずかしい」素直に言うと
「俺の方が恥ずかしいわ」逆に言われた。
「今日はありがとう。ごちそうさま」
「こっちもありがとう。考えといて」それだけ言って手を離して走るように行ってしまった。
 
 すぐ返事ができればいいのに。
 新年会でブルガリが当たってなかったら、すぐ返事ができたかもしれない。
 きっと琉希と付き合えば、楽しく過ごせるだろう。一緒に過ごせば好きになるだろう。
 なのに、どうしてすぐ返事ができないんだろう。推しとは世界が違うのに、LINEが繋がっただけで浮かれてる私は大バカな庶民なのに。世界が違うのに。専務にはまだ好きな人がいるのに。
 琉希に返事ができない、私はバカだ。
< 28 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop