愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「チケット販売が朝十時スタートって。
その時間は会社だっての!」
私が絶望したように言うと亜由美ちゃんも申し訳なさそうに、
「ごめん、休みならチケット取るの手伝おうかと思ったけど無理だわ」
「気遣いありがとうね。
私が有休取れる立場なら良かったけど、まだ就職して三ヶ月も経ってないし」
「有休取れるようになっても、すぐ取るのは会社にとっては嫌がられるけどそっちはどう?」
「どうかなぁ、残業してる人も多いし、そんなに休んでいる人はいないかも。
就労条件では週休二日制ってあって、土日祝日休みという事だったんだけど」
「週休二日制と完全週休二日制が違うなんて、普通わかんないよね」
亜由美ちゃんがため息をついてジュースを飲む。
週休二日制は週に二回休めるという意味では無い。
週に最低一回休みで、月に一度週に二回休みがあれば良いとされている。
完全週休二日制は、週に必ず年間を通して毎週二回休みがあるという意味で、それが土日とは限らないというのも、ハローワークで教えて貰って初めて知った。
私は今の会社に就職する際、ハローワークではなく登録しておいた転職サイトで縁を結んだ。
ハローワークで提示された労働条件と実際が違えばハローワークに通告することが出来るが、転職サイトの場合はそうはいかない。
今の会社は土日祝日休みとなっていたが、その日も出勤している人達がいるのはわかったので、かなりハードなのは覚悟している。
このご時世、それなりの給与で正社員、元々やってみたかった出版の仕事に携われるのだから文句など無い。
「チケット、昼には売り切れてるかなぁ」
私はため息交じりにサイトを見ながら言う。
必ずお昼は十二時からではないが、スマホを弄れるのはお昼しか無い。
「二日間あるし、箱でかいし大丈夫じゃ無い?」
「そうだと良いなぁ」
「で、ウィーンを一緒に過ごしていたのは彼なのね?」
自分のスマホを持ったまま固まった。
ギギギと音がしそうなほど、ぎこちなくスマホの画面から亜由美ちゃんの方を向く。
そこには眩しいほどに笑顔の友達がいた。
「凄いねぇ」
「これは、このことは秘密でお願いします!!」
私は手を合わせ頭を下げる。
さっき亜由美ちゃんにこの人でしょ?と聞かれてから、レンのコンサートのことしか頭になかった。
完全に認めた行動と言動で、もう誤魔化すことなど出来ない。
「言わないよ、ピアニストの友達が知ったら発狂するわ」
「すみません、他にもそういう人達がいるかと思うのでよろしくお願いします」
わかってる、と亜由美ちゃんは笑った。
彼女が口が堅く信頼できる人だというのは長年の付き合いでわかっている。
亜由美ちゃんから漏れることは無いとは言え、軽はずみな行動は控えなければ。