愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「疑ってないよ。
でも、彼女がレンを思う気持ちはただのマネージャー以上だよね?」

レンは唇を引き結び、私から視線を逸らした。

「以前、ミアから気持ちを打ち明けられたことがある」
「それで、交際していたの?」
「いや、付き合ったことは無い。
そもそも誰か特定の相手というのは煩わしかったし、音楽の方が楽しかった。
ミアに告白されたときははそういう相手には思えないと断ったが、その後マネージメントのメンバーとして入ってきた」
「てっきり仕事をしているうちにって思ってた。
ミアさんとは古い付き合いなの?」
「ミアは音楽学校時代からの友人の妹なんだ。
顔を知っているというのなら一応長いだろう。
だが仕事を組むようになったのはここ数年だ。
それまでは友人と一緒に来る、ピアノの好きな子という印象だった」

ミアさんとの関係を初めて知った。
レンに振られたとしても、彼女はただ彼の側にいたかったのかも知れない。

「ミアさんはレンの音楽を世界に知らしめたいって言ってた。
ルックスを売りにしても、それをとっかかりに知ってもらいたい、そんな事も言ってた」
「以前客寄せみたいなことはしていると言っただろう?
みたい、ではなく客寄せとして俺の容姿は便利だった。
ミアが俺をピアニストとして有名にしたいことはわかっている。
だからそういう事も受け入れていたが、俺自身はどこに向かっているのかわからなくなっていた」

コップに入れた炭酸入りのミネラルウォーターを、ぐい、とあおるようにレンは飲む。

「そうやって疲れ切っていたときに楓に出逢った。
俺はようやく、まともに息が吸えたような気持ちになったんだよ。
今回日本公演を受けたもう一つの理由である愛する女に会いに行く為という理由をミアに話したとき、怒ったが割と早く怒りは済んだ。
今思えば、どこかで冗談だと思っていたんだろう。
だが楓を見て、俺が話した理由が本当だと確信したとはいえ、あんな風に行動するとは。
不愉快な思いをさせて悪かった」
「待って!だから謝らないで。
私にはミアさんとレンの関係は、聞いた話しかわからない。
でも、彼女はレンのために必死に頑張っていたのは事実でしょう?
そこに訳の分からない女が出てきたら怒るのも無理ないと思うよ」

彼女の言っていた、私がレンの将来を潰すという言葉。
それを私は分かっていただろうか。
うちの雑誌も驚くほどの売れ行きになっている。
これがまた話題を生んで、レンへの注目度は音楽業界という世界だけでは無く広がるだろう。
レンの本を本屋で手に取っているのはほとんどが女性。
まだコンサートも開いていない状態で、私という足枷のような存在が明らかになってしまえば。

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