忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
投与された薬のせいか体に疲労が残ているのか、救急外来で眠ってしまった母さんはそのままストレッチャーで運ばれ、私も一緒に病室へ入った。

「えっと、ここが病室ですか?」
「ええ」

病棟に案内され、部屋に入った瞬間に驚いた。
だって、ここは見るからに特別室。
広い病室にはベットとソファーセットと壁には巨大スクリーンのテレビがあり、大きな窓からが東京の街並みが一望できる。
そして部屋の奥には廊下が続いていて他にも部屋があるようだ。

「廊下の先には付き添いの方が休めるように部屋があり、バスルームとキッチンもついています」
「はあ」
あんまり凄すぎて、そんな言葉しか出てこない。

そう言えば、有名人やお金持ちが利用するVIPルームが大学病院にもあるんだと徹から聞いたことがある。
きっとここがそうなんだろう。

「あの、個室をお願いしたつもりはないのですが・・・」
さすがに不安になって、看護師さんに声をかけてみる。

ここって見るからにお高い部屋。
一泊数万円はするに決まっている。
たとえ一晩とはいえ、あまりにも贅沢すぎる。

「そうですか?この部屋をご希望されているって聞いていますが・・・」
「いえ、そんなはずは」

徹が頼むわけがないし、私だって個室の希望を出した覚えはない。
じゃあ、

「三朝さんからの申し出と聞いていますが、変更されますか?」

ああ、やっぱり。
そんな予感はしていた。
でもなあ、尊人さんに対して色々と後ろめたさのある今の私には文句も言えない。

「このままで結構です。今夜一晩お世話になります」
結局そう言うしかなかった。
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