秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
ぼんやりと店の掛け時計を眺めていると、ジャケットのポケットに入れていたスマホがメッセージの受信を知らせる。
二時間後に行われる会食の詳細だった。
正直何も胃に入れたくないくらい気分が悪いが、ここでじっとしていたところで埒もあかない。
時間まで、仕事でもするか。
重たい腰を上げ、会計を済ませた俺は近くに停めた愛車に乗り込んだ。
――俺が父方の先祖が創業した老舗百貨店、葛城堂を継いだのは今から三年前だ。
元々大学時からスタートアップ会社を友人と経営していたので、参新者として会社に入ってからも、割とスムーズに経営を回すことができた。
父の代で低迷していた業績も、イベントを数多く打ち広告に力を入れたことで無事に上向きにさせることができ、今は少しだけ気持ちの余裕もある。
この数年間はいきなり消えた結愛を忘れたい一心でむしゃらに走り続けたが、逆効果だった。
むしろ時間が経てばたつほど恋しい気持ちは大きくなり、彼女との再会を願うようになった。
窓の向こうで通り過ぎてゆくネオンの光が美しく、虚しさが体を蝕む。
『いらっしゃいませ』